The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
果たし状を渡されるとでも思っていたのだろう。

唖然とするハーリアに、俺は説明を続けた。

「実はこの度、あなた方『シュレディンガーの猫』への対抗策として、帝国騎士団から直々に共闘の申し入れがありましてね。一緒に協力してよそ者の猫さんを追っ払いましょうよ、ってね。マフィアを傭兵代わりにするんだから、それ相応の対価は頂いたんですが」

「…」

「けれども俺、帝国騎士団のことはいけ好かないんですよね」

この理由は言うまでもない。もとはと言えば、奴らとは宿敵同士だからな。

いくら共通の敵が現れたとはいえ、ホイホイ仲良く手を繋ぐなんてことは出来ない。

オルタンス嫌いだし。俺。

「しかも帝国騎士団の奴ら、俺達を盾にしようとしてるんですよ?そりゃいけ好かないのは当然でしょう。大体いつも上から目線で偉そうに…。なんて、帝国騎士団への愚痴を語ってたら日が暮れて夜が明けちゃうので、このくらいにしておきますけど」

奴らへの不満なら、ダース単位で用意出来るのだが…それはまたの機会にたっぷり喋らせてもらうとして。

「…つまりお前達は、帝国騎士団を裏切って我々の側につこうとしているのか?」

「早い話がそういうことですね」

どうせ協力するなら、好きな人と組んだ方が良い。

何でわざわざ、あの糞野郎共と仲良しこよししなきゃならないんだ?

「どうせ帝国騎士団と組んであなた方を撃退しても、その後また帝国騎士団とは対立関係に戻りますからね。それならあなた方と組んで帝国騎士団を叩きのめして、仲良く利益を山分けした方がお得じゃないですか?」

「…」

「同じ組むなら、お互い裏社会に通じているマフィア同士で組んだ方が話が早くて済む。それだけじゃない。あなた方はルティス帝国裏社会においては新参者。俺達は先輩。あなた方がこの国で基盤を築いていく為のお手伝いをしてあげましょう。勿論、相応の見返りは頂きますが…でも悪い話ではないでしょう?」

むしろ、旨味のある話のはずだ。

箱庭帝国から逃げてきた彼らには、この国でやっていく為のつてが何もない。

それを、ルティス帝国最大のマフィアである『青薔薇連合会』が、彼らを支援する。

当然ながらそれなりの見返りは求められるが…でも、まずは当座のスポンサーを得て腰を据えるまでは、彼らは生きていくことさえままならない。

「…確かに、我々にとっては悪い話ではない。でも、お前達にとっては…敵に塩を送るも同然じゃないのか。我々を同業者にすることになるぞ」

ハーリアはそう指摘した。

その通り。『シュレディンガーの猫』を助ければ、後々彼らは俺達の競合相手として、脅威になる恐れがある。

しかし。

「だからこそ共闘を申し入れてるんですよ。最初にこうして恩を売っておけば、そうそう裏切ろうとは思わないでしょう?少なくとも数十年は甘い汁を吸える。それに…あなた方にやられるほど、俺達もヤワじゃないですよ」

挑戦的に言うと、ハーリアはプライドを刺激されたのか、眉をひそめた。

『シュレディンガーの猫』の過激なことは、俺もルルシーから聞いて知っている。

敵対するよりは、味方にした方がまし。

それも、恩を売ることで少しでも首輪をつけられるなら。

帝国騎士団なんかと組むより、よっぽど利益がある。

何より、親の仇以上に憎んでいる帝国騎士団と組むなんて…俺は吐き気がするくらい、嫌なのだ。

奴らを騙して嵌められるなら、こんなに楽しいことはない。
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