The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
「『青薔薇連合会』は『シュレディンガーの猫』と共闘して、帝国騎士団と敵対する…振りをする。『青薔薇連合会』が始めに帝国騎士団と同盟を組んだことは、『猫』も知っている。その上で、我々は帝国騎士団を裏切った振りをして、『猫』と協力しているように見せる。帝国騎士団は、その演技に協力してもらいたい」

『シュレディンガーの猫』に対しては、『青薔薇連合会』は帝国騎士団を裏切って『シュレディンガーの猫』に協力すると伝える。

けれども実は、『青薔薇連合会』が帝国騎士団を裏切ったというのは嘘で、裏切った振りをしているだけ。

だから、帝国騎士団にはその嘘に協力して欲しい。『青薔薇連合会』に裏切られた振りをして欲しい。

これは、そういう交渉なのだ。

「…何の為にそんなことを?」

「犠牲を少なくする為だ」

本当は、こんな小細工をしなくても、『シュレディンガーの猫』を倒そうと思えば倒せるのだ。

ルレイアが構成員の一人を見つけたのだから。

しかし。

「『猫』の構成員は恐らく、拷問しても口を割らない。自白剤を使ったとしてもほとんど効き目はないだろう」

俺達と同じだ。薬物耐性があるから自白剤は効かない。

「奴らの拠点を炙り出し、襲撃したとしたら…犠牲は計り知れないぞ。奴らは数こそ俺達には及ばないが、奴らの残虐なやり方はお前達も知っているだろう」

「そうだな」

ルレイアは、詳しくは知らないだろうが…。奴らのやり口の残虐なことと言ったら、俺達でも眉をひそめるくらいだ。

『青薔薇連合会』の捕虜は一人残らず、拷問されて殺されていた。原型を留めない彼らの亡骸が、見せしめのようにご丁寧に送られてきた。

マフィアとは関係ない一般人に対しても容赦ない。それは帝国騎士団側もよく知っているはずだ。

「『青薔薇連合会』としては、これ以上の犠牲者は出したくないというのが本音だ」

「そうだろうな。我々としても、若い帝国騎士をむざむざ死なせたくはない」

「お前が言うと、途端に言葉の重みが薄れるな」

今の台詞をルレイアが聞いたら、一発でキレてただろうな。

「そうだな。じゃあアドルファスが言ったことにしてくれ」

「あ?」

とばっちりを受けたアドルファスが抗議の声をあげたが、オルタンスは涼しい顔であった。

「ともかく…。犠牲を避ける為には、『シュレディンガーの猫』に協力しているように見せかけて、奴らから情報を引き出し、油断させて背中から撃つ。これが一番効果的だ」

「ふむ…。確かに合理的だな」

「言いたいことは分かるが…。そう上手く行くか?あいつらだって馬鹿じゃねぇ。自分等と繋がりながら帝国騎士団とも繋がってるってこと、勘づかれたらどうすんだ?」

と、アドルファス。

その質問はされると思っていた。

「勘づかれないように…ルレイアが上手くやる。あいつならそれが出来る」

「…ルレイア…ってのはルシファーのことか」

「そうだ」

ルシファー。懐かしい。その名前はとっくに捨てている。

俺がかつて、生まれたときについていた名前を捨てたように。

「あいつが、『シュレディンガーの猫』との連絡役を務めるんだな?」

「あぁ。ルレイアがやる」

アドルファスの問いに答えると、続いてオルタンスが質問してきた。

「この計画を立てたのも、彼だと言ったな?」

「そうだ。ルレイアが提案して、俺が協力している」

「ならば、問題なかろう。余程のイレギュラーが起きない限りは、彼ならやってのける」

オルタンスはきっぱりと言った。ルレイアの実力を、全く疑っていなかった。

これには、少し驚いた。

オルタンスは、ルレイアを捨てはしたものの…その実力だけは確かなものだと認めている。

アドルファスも同様。ルレイアは、敵に回すと脅威であると身をもって理解している。

しかし。

「…だが、信用は出来ない」

オルタンスは、冷たい声でそう言った。
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