The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
「ルシファー…ルレイアの実力は認める。彼が提案し、実行するなら、やり遂げることだろう。だが、信用はしない。お前達は所詮、マフィアだからだ」

「…」

「そもそも、この話が真実だという保証もない。我々と協力して『シュレディンガーの猫』を嵌めると言っておきながら、実は本当に『猫』と組んでいる恐れもある。あの男なら、それくらいの細工はしてくるだろう」

「…全くだな」

言わずとも、オルタンスはよく分かっていることだろう。

ルレイアは、帝国騎士団に対して並々ならぬ憎しみを抱いている。

帝国騎士団と共闘するより、『シュレディンガーの猫』と同盟を組んだ方が良いと思うのも、無理はない。

そしてルレイアなら…帝国騎士団を奈落に突き落とすことに、何の躊躇いも抱かない。

それは確かだ。

「貴殿の言っていることが真実である保証が何処にもない以上…この話は受けられない」

「…そう言うと思っていた」

オルタンスは堅実な男だ。犠牲者が増えることを恐れてこの話に乗って、もし騙されていたら…犠牲者はもっと増える。帝国騎士団は壊滅の危機に追い込まれる。

そうなるくらいなら、一定の犠牲を払っても、素直に『シュレディンガーの猫』を襲撃した方が良い。

オルタンスなら、そう言うと思っていた。

だから。

「…だから、俺がここにいるんだ」

ルレイアの為に。ルレイアの作戦を成功させる為に。

ルレイア一人だけを、危険な場所に放り込む訳にはいかない。

「…あぁ、成程。そういうことか…。それで、貴殿が来たのか」

「そうだ。だから俺が来た」

俺の言わんとしていることが分かったのか、オルタンスは納得したように目を伏せた。

「…俺は、人質になりに来たんだ」

もしルレイアが、帝国騎士団を裏切って『シュレディンガーの猫』についたら。

帝国騎士団に捕らわれている、俺を殺す。

俺の命が惜しければ、ルレイアは帝国騎士団を裏切れない。

そうでもしなきゃ、オルタンスは俺達を信用しないだろう。

だから俺が来た。ルレイアへの人質になりうるのは、俺くらいだ。

「貴殿が自分から志願したのか?自分が人質になると?」

「そうだ。俺から志願した」

ルレイアだけを危険な目には遭わせない。あいつが敵のど真ん中に単身乗り込むというなら、俺も同じことをする。

シュノでも、アリューシャでも、頼めばこの役を引き受けただろう。シュノは特に…ルレイアを心から信用しているから。

けれどもこれだけは、他の誰にも譲る気はなかった。
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