The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
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Ⅰ (9/39)
…げ、やべぇ。
…と、全員言いかけて、なんとか言葉を飲み込んだ。
そんなこと言おうものなら、品がないだとか不真面目だとか言って、更に怒られるところだった。
「人の稽古を見るのも稽古のうち。私語をしてないで黙って稽古を見るべきだよ」
件のクラス委員長、ティモニー・ファルム・グラディウスである。
彼は…何と言うか、悪い人ではないのだけど。
…性格がちょっと、真面目に過ぎる。
「はーい…。見ます…」
彼に逆らうなんて、うちのクラスじゃ誰も考えやしない。
言い返そうものなら、10倍にも100倍にもなって返ってくることだろう。
「特に、アシベル君」
「ひぇっ」
自分に矛先を向けられ、大袈裟にびくっ、とするアシベル。
アシベルはこうしてよく、ティモニーの餌食にされる。
というのも、彼は…。
「君は名門、カルトヴェリア家の一族なんだよ?誰もに将来を期待されているというのに、その自覚がないの?」
「…済みませーん…」
そう。アシベルの家の名前。
カルトヴェリア家と言えば、ルティス帝国ではかなり有名な名家だ。
特に彼の家の当主は、現在の帝国騎士団五番隊隊長を勤めている。
ティモニーは事あるごとにその人の名前を持ち出して、お調子者のアシベルを諌めていた。
そんなだらしないことで、伯父上に申し訳ないとは思わないのか、と。
それ故アシベルは、俺達よりずっとティモニーを苦手としている。
おまけにティモニーは、アシベルと同じで貴族だった。
同じ貴族の子として、思うところがあるようだった。
「大体、この間の帝国史の課題レポートも、遅れて提出していただろう。そうやって君は、伯父上の品位を貶めるようなことを…」
と、またしてもくどくどと言われそうになったとき。
丁度タイミング良く、前の試合が終わり、アシベルの名前が呼ばれた。
「あっ!ごめん!呼ばれてるから行くわ!」
「ちょ、アシベル君…!」
アシベルはこれ幸いと背中を向け、闘技場に走っていった。
お小言が不発に終わったティモニーは、しばしもごもごと口ごもった後。
くるりとこちらを向いた。
「君達からも、アシベル君を諭してやってくれ。彼は貴族の子女としての自覚が足りない」
「はぁ、了解です…」
アシベルを諭すなんて、そんなことをするつもりはないけれど。
勿論、ティモニーには逆らえないので、俺達は素直に頷いた。
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