The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
総帥の執務室を出て、私はビルのロビーでしばし呆然と虚空を見上げていた。

命が助かったとは思っていなかった。

余命が僅かばかり延びたところで、何になると言うのだろう。

「…随分と下手を打ったものね」

その私のもとに、嘲りの言葉が聞こえた。

「あんたみたいな半人前を使うと、こうなるのは分かっていたわ。人手不足とはいえ、総帥もこんな半人前を使うなんて…失敗したと思ってらっしゃるでしょうね」

「…シトウさん」

先程、総帥の後ろで護衛していたシトウ・フルフレースであった。

彼女はわざわざ私を追ってきて、嘲笑を投げ掛けてきた。

「こんなところでのんびりしていて良いの?『連合会』の…ルレイアとかいう男のところに逃げる準備は済んだ?」

「…私は逃げたりしない」

掠れるような声で、私はそう答えた。

そもそも私達は、祖国から逃げてきて、今ここにいるのだ。

今更私達に逃げる場所なんて、何処にもない。

「あら、そう。総帥は『青薔薇連合会』幹部との会合を、来週の月曜日にご所望されているわ。そのように手配して」

「…分かりました」

「まぁ、精々最後のお役目はしっかり果たしてちょうだいね」

最後にもう一度私を笑ってから、シトウは軽やかに歩き去った。

「…」

明日、私はルレイアに、何て言えば良いのだろう。

どっちに転んでも、私は死ぬ。

ならばもう、明日どうなるか、これから先どうなるかなんて…考えたところで、全て無駄だった。
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