The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
Xとの会談を終え、部屋を出たタイミングで、再びインカムからアリューシャの声が聞こえた。

『今ぶっぱなしたら、ボス猫と、ついでにルレ公の腕一本くらいは吹き飛ばせるけど。どうする?』

「片腕がなくなったら、ルルシーを抱き締められないので勘弁してください」

『にゃはは。りょーかい』

『ふざけないで、アリューシャ。ルレイア、回収するから所定のポイントに来てちょうだい。迎えに行くわ』

アリューシャに次いで、真剣そのもののシュノさんの声。了解です、と答えて建物を出よう…としたら。

「待て!」

後ろから、俺を呼び止める声が聞こえた。

振り返ると、そこには急いで追ってきたらしいカセイの姿があった。

「おっと、どうしたんですか?『ハーリア』さん?」

嫌味たっぷりにその名前で呼んでやると、彼女は俯き気味に答えた。

「…その名前は…偽名だ。本名は…」

「カセイ、でしたっけ?何カセイかカセイ何か知りませんが」

「カセイ・リーシュエンタールだ。ハーリアというのは…ミューリアを思い出して咄嗟に思い付いた偽名だ」

「あ、やっぱりそうなんだ…」

いかにもやっつけ感のある名前だと思ったよ。

「それでカセイさん。俺に何か用事ですか」

「…お前、何で…私を助けた」

「あぁ…。そんなことが聞きたかったんですか」

折角命拾いしたんだから、素直に喜んでおけば良いのに。

「理由なら、さっき言った通りですよ。ついでに…あなたはXさんの言う通り、無能ですから。与し易いというのも大きな理由ですね」

「…っ」

悔しかろう、悔しかろう。

存分に悔しがってくれ。敵に命を救われたことを。

「まぁでも、つまりあなたを助けたのはビジネスですから。助けたという言い方もおかしいですね。あなたが恩を感じる必要はありませんよ」

「…」

「それじゃ、また明日。学校で。しっかり演技してくださいよ、カセイ・リーシュエンタールさん」

それだけ言って、俺は踵を返して出ていこうとした。

すると。

「…助かった」

か細い声が、背中に聞こえた。

「…」

振り向くと、カセイは唇を噛み締めるようにして、俯いていた。

彼女はその一言だけ言うなり、背中を向けて歩き去った。

…何だ、あの女。

救いようのない頭でっかちかと思っていたら、ちょっと可愛いじゃないか。

「…ふふ」

楽しくなりそうだ。明日から。

まずは、この吉報を俺の愛しいソウルメイトに知らせるとしよう。
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