The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
唐突だが、実は私の左腕には、裂傷の痕が残っている。

ルレイアのような、リストカットの傷ではない。

左手の二の腕から、手首の少し上くらいにかけて残った傷痕だ。

それも、切れ味の悪い刃物でざっくり切られているものだから、綺麗な傷ではない。

素人が見たら、思わずぞっとしてしまうような汚いものだ。

長袖の服を着れば隠れてしまうから、普段は人目につくことはない。

けれど半袖になると、どうしてもこのキズが見えてしまう。

これほど目立つ傷だ。気がつかないはずがない。

しかし、この傷痕に関して、アリューシャやシュノ、ルルシー、ルレイアから、指摘を受けたことは一度もない。

それどうしたの?とか。何でそんな傷がついたの?とか。

何も聞かれない。ことさらに気を遣われている風もない。いつものように、何事もないかのように、普通に接してくれる。

気づいてないはずがないから、単に、気にしていないのだろう。

裏社会にどっぷりと使っている彼らは、今更こんな傷痕くらいでは全く動じない。

あぁ、アイズもなんかあったんだろうなぁ、と思うくらいだ。

その気持ちはよく分かる。

例えこの傷を負ったのがアリューシャやルルシー達だったとしても、私はその傷痕について、彼らにずけずけと尋ねるようなことは考えもしないだろうから。

大事なのは今の彼らであって、彼らの過去について詮索するようなことはしない。

これは、『青薔薇連合会』のみならず、マフィアの暗黙の了解のようなものだった。

だって、マフィアに入るような人間達だ。真っ当に表の世界で生きられなかった人間達だ。そんな彼らの過去が、愉快なものであるはずがない。

事実この私の過去も、ルレイアほどではないにせよ、それなりに陰惨なものであった。
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