The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
幼い頃の私が、どんな風に毎日を過ごしていたのか。

今になって思えば、毎日無為に時間を浪費するだけのようだった気がする。

貧民街には学校もなく、子供達がやることと言ったら、大人の手伝いと小遣い稼ぎ、そして近所の子や兄弟達と戯れること。それだけ。

他にやるべきことなんて、ほとんどなかったように思う。

私はアシュトーリアさんに拾われるまで、文字の書き方、読み方、簡単な算数だって分からなかった。

学校に行けるのは、金持ちの子供だけ。

我が家のような貧しい家では、学校に行くなど夢のまた夢。

学校に通っている子供を、羨ましいとは思わなかった。彼らは私にとって、遠い世界の人も同然だったから。

貧民街の子は、教育を受ける夢など見ない。それよりもっと現実的なことで頭が一杯だ。

文字を読むことよりも、今日はパンを食べられるだろうかということの方が、ずっと大事だった。

あの場所で最も幸せなことは、お腹一杯食べ物を食べることが出来て、ついでに明日食べるものについて頭を悩ませる必要がないこと。これだけだ。

従って、私の頭の中もそんなことで一杯だった。

実際それは、我が家では最重要事項であった。

養う口は多いのに、稼ぎ手は少ない。九人の家族が食べていくのは容易なことではなかった。

両親の稼ぎだけでは到底生きていくには足りず、私を含めた兄弟達は、毎日小遣い稼ぎに勤しんでいた。

靴磨きとか、クズ拾いとか、街に出て、道行く人に煙草やマッチ箱を売り付けたり。

子供の稼ぐ額なんて、たかが知れていた。一日中外を歩き回って得られる額は、精々小銭を数枚程度だった。

でも、そんな小銭に頼らなければ生きていけないほど、我が家は貧しかった。

我が家だけではない。スラムとは、そんな家庭の集まりだった。

今考えると異常だが、あの頃の私は、その世界しか知らなかった。

だから、あれが異常なことだとは思わなかった。

今でもあの場所にいたなら、きっと一生気づかなかったことだろう。
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