The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
貧民街は餓えが蔓延していた。病気もどんどん広がっていった。

絶望的な状況だった。

しかしその頃…一つだけ、良いことがあった。

それが、先程から言っている、長兄のことである。

その頃政府がようやく重い腰を上げたのか、それとも一部の貴族の道楽なのか。

貧民街の子供を救済する目的として、子供達を何人か集め、貴族の家で住み込みの下働きとして雇用する、という計画が立てられた。

お金ないんなら、仕事紹介してあげるよ、という訳だ。

採用枠は限られており、倍率はとんでもなく高かった。しかし幸いなことに、一番上の兄が選ばれたのである。

この絶望的な状況で、兄だけは助かるかもしれない。

私は素直に喜んだ。兄のことは好きだったから、兄だけでもこの沈みゆく泥舟から脱出出来るなら、そうするべきだった。

兄は私達に申し訳なさそうに、たくさん稼いでくるから、必ず戻ってくるからと何度も言って、私達と抱き合って、別れていった。

僅かな荷物だけを持って、悲しげに私達に手を振る兄。

それが、私が見た兄の最後の姿だった。

多分もう、二度と会うことなんてないんだろうな。

子供心に、私はそれを予感していた。そして、それは見事に的中することになったのだ。
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