The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
あんまり深く突き刺したせいで、鎌の刃が母の背中まで貫通していた。

でも、私はそれをぐりぐりと左右に動かして、無理矢理引き抜いた。

まだ武器が必要だと思ったからだ。

息を荒くしながら、私は右手に鎌を握り直した。

顔にも身体にも、母の血がべったりとついていた。

私は足音を立てないように、そっと兄のもとに行った。

例の、病気の兄が隔離されている部屋に。

そこから、誰かが啜り泣く声が聞こえていたから。

行くと、父が寝ている兄の上に覆い被さっていた。

兄の首に、父の指が食い込んでいた。絞め殺している真っ最中だった。

今がチャンスだ、と思った。

やるなら、父が油断している今しかない。

私が背後にいると分かったら、すぐに絞め殺されることは明らかだった。

またしても、私は無慈悲だった。

父の背後から、情け容赦もなく、渾身の力を以て鎌を振り下ろした。

父は呻き声を上げ、兄の上に倒れた。目玉が有り得ないくらいに飛び出していたから、死んだのだとすぐに分かった。

…これで、当座の死の危険は去った。

少なくとも、私を殺そうとする大人はいない。

安心すると、腕の傷が猛烈に痛み出した。よく見てみると、結構深い傷だった。

私はこれにも焦らなかった。急いで傷口を水で洗い流し、毛布代わりのボロ布を、今度は包帯代わりに巻き付けた。

適当な処置だったから、感染症にかかって死んでもおかしくはなかったが…幸い、私は無事だった。

一応、父に絞め殺されそうになっていた兄の息を確かめてみたが、やっぱり死んでいた。

こうして私は、一夜にして家族を失ってしまった。
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