The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
こちらから撃つべきか、それとも、向こうが撃つのが先か。

どちらにしても、この距離ならお互いに外すことはない。

向こうが先に撃ったとしても、撃たれて一秒くらいは意識があるだろう。

そして一秒もあれば、引き金を引くには充分だ。

あとは、私が殺しきれるか、という問題だが。

これは甚だ疑問だな。私は拳銃については、さらっと習ったくらいで素人も同然。

その手のプロであるこの女幹部には到底及ばない。

向こうは確実に私を殺すだろうが、私はこの人を傷つけることは出来ても、殺すことは出来ないかもしれない。

まぁ、そのときはそのとき。

いずれにしても、簡単に殺されるつもりはなかった。

人間、拳銃で腹を撃たれてから絶命するまでに、何が出来るのか分からないけど。

物は試しという奴だ。

「…どうせ撃つなら、私が先に撃ちましょうか」

「…愚か者め」

呟くなり、女幹部は引き金に指をかけた。

あ、撃たれるな。そう思った瞬間だった。




「素晴らしいわね。アイズ。あなたは本当に良い子だわ」



鈴を転がしたような心地良い声が、室内に響いた。

「…!?」

振り向くと、そこにはアシュトーリアさんの姿があった。

…この人、いつの間に。

と言うか、いつから?

「アシュトーリア様…!?これは…」

「ごめんなさいね、メリー。あなたが来ることは分かってたの。アイズを懐柔しようとすることもね」

この女幹部、メリーって名前だったのか。知らなかった。

そして私は、全てを理解した。

これは…つまり私は、不穏分子を炙り出す為の餌ってことか。

「全て聞かせてもらったわ」

「…」

言い訳など、出来る状況ではなかった。

問答無用。現行犯逮捕である。

女幹部、ことメリーも、自分の運命を理解したようだった。

「悪いわね。でも私も…そう簡単に引き摺り下ろされる訳にはいかないの」

「…あなたの統治する『青薔薇連合会』の行く末は、地獄でしかない」

「大丈夫よ。きっとそうはならない。ここにいるのは、私だけではないもの。その子や、これからここに来る未来ある子供達が、きっと『青薔薇連合会』を導いてくれるわ」





そのときの、アシュトーリアさんの言葉は。

まるで今の未来を、そのまま映し出したかのようであった。




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