The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
その後メリーがどうなったのかは、言うまでもないとして。




「♪♪♪~」

「…」

翌日。午後のティータイムにて。

アシュトーリアさんは、いつになく嬉しそうだった。

不穏分子を処分したから?でも…それくらいでこんなに喜ぶものか?

「…あの…何がそんなに嬉しいんですか?」

かなりストレートな問いかけだが、目の前で鼻唄を歌われてもどう反応して良いのか分からないのだ。

「あら、嬉しいに決まってるじゃない。私の可愛いアイズが、あんなことを言ってくれたんだもの」

「…」

どうやらアシュトーリアさん、あのときの一連の会話を、ずっと聞いていたようで。

思い返してみたら結構恥ずかしいことを言っていたような気がするのだが…。盗聴とは、するのは良いがされるのは遠慮したいものなのだと思い知らされた。

ずずず、と紅茶を啜る。最初に飲んだときは、これの何が美味しいのかさっぱり分からなかったのだが。

最近、味の違いが分かるようになってきた。

紅茶を啜って改めて、私は昨日から気になっていたことを聞いてみることにした。

「…私がもし裏切ったら、どうするつもりだったんですか?」

あの作戦は、私が裏切らないことが前提だった。

私があのときもし、メリーの申し出を受けていたら。

アシュトーリアさんは、どうするつもりだったのだろう。

私ごと、メリーを処分していたのだろうか?

「あら。あなたが裏切るなんて、私はこれっぽっちも考えちゃいなかったわよ?」

「…何故?」

「だって、あなたは私の可愛いアイズなんだもの。私を裏切るはずがないわ」

「…」

あんまり…返事になっていないような気がするのだが。

「あなたがどういう人間なのか、私にはちゃんと分かってるわ。だからあなたを傍に置いてるのよ」

「…そうなんですか」

「それに、あなたは私の一人息子なんですもの。可愛い息子を信じないはずがないでしょ」

「…私は、実の母親を殺した人間ですよ?」

冗談めかして笑ってみせるが、しかし、アシュトーリアさんは笑わなかった。

「だからこそよ。だからこそ、私はあなたを選んだの。自分を信じて、そして自分を愛しなさい。あなたは誰かに望まれて、今ここにいるのよ」

…そうか。

なら、やっぱり…私の人生は、これで良かったのかもしれないな。

ここに来て良かった…。私は初めて、そう思った。

「…あ、そうだわ。思い付いた」

いきなり、ぱん、と手を打つアシュトーリアさん。

「…?何を?」

「あなたの名前よ。アイズレンシア。アイズレンシア・ルーレヴァンツァ。どうかしら?素敵な名前じゃない?」

アイズレンシア、ね。

何だか、箔がついたみたいな名前だな。

「…えぇ。素敵ですね」

何せ、新しい母親がつけてくれた名前なのだから。

ならば私はアイズレンシアとして、彼女の為に、そして家族の為に…この命が終わるその瞬間まで。全力で。
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