The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
アリューシャは偽善者Aに連れられて、『Sanctus Floralia』の本部に連れていかれた。

本部と言っても、そこは『青薔薇連合会』本部のような、巨大な高層ビル、ではなく。

「…ここが本部?」

「そう」

普通の、ちょっと大きな家だった。

このくらいの家、高級住宅街じゃよくあるぞ。

でもアリューシャはまだ、マフィアの本部がこういうものという常識を知らなかったから、こんなもんか、と思った。

「ほら、入りな」

「…さんく何ちゃら、にはお前しかいねぇの?」

「他にもいるよ。四人くらい」

驚くべきことに、『Sanctus Floralia』は超少数精鋭、の組織だった。

非合法組織と言うより…あの組織は、ただのサークルみたいなもんだ。

「ただいま」

偽善者Aに連れられて、アリューシャはその家の中に入った。

マフィアの本部のはずなのに、玄関は普通の家のそれであった。

物乞いでよく人様の家の玄関に入ることがあるが、それと全然変わらない。普通の玄関。

「こっち。おいで」

「…」

廊下を真っ直ぐついていくと、広いリビングに辿り着いた。

そこには、

「…その後ろの、誰だ?シュシュ」

ゆったりとソファに座って、何やら歓談していた三人組が、くるりとこちらを振り向いた。

…しゅしゅ?

「拾ったんだよ。路地裏でさ」

「ふーん…。どうするの?その子」

「育てる」

アリューシャ、育てられるらしい。

「へぇ。そんなに気に入ったの?」

「肝の据わってそうな子でしょ?」

「そうだね」

彼らがアリューシャの何を見て、そう言ったのかは分からない。

未だに分からない。

けれども彼らは、アリューシャを見てそう思ったらしい。

「とりあえず服を着替えさせた方が良いんじゃない?」

「だね。サレオスちょっと服貸してよ」

「仕方ないな」

サレオスと呼ばれたその人は、立ち上がって部屋から出ていった。

服を取りに行ったのだと思われる。

「さて、それじゃ君、まずシャワー浴びようか」

…。

「…ねぇ、偽善者A。しゃわーってなに?」

「…」

「…何?その顔」

「偽善者Aってのは何?」

「あぁ…」

心の中での呼び方が出てしまった。

「他に何て呼べば良いのか分からん」

「そっか…。君に悪意がないのはよく分かるよ。私のことはシュシュリーと呼んでくれ」

「しゅ…す…すすりー」

なんか、早口言葉みたいだな。

「シュ・シュ・リー。言える?」

「し…しゅすりー」

「惜しい」

まともに言葉を習っていないアリューシャは、シュシュリーの名前すらまともに言えなかった。

「シュスリー」

「もう良いよ。それで」

いや、だってさ。呼びにくいんだもん。

呂律回らない。

「で、しゃわーって何」

「行けば分かるよ。お風呂ってこと」

「…風呂…」

アリューシャにとって風呂と言ったら、雨を浴びるか、あるいは川での水浴びだった。

それも、一月に一度くらいしか身体を洗わなかったので、アリューシャは超…超不潔であった。

着ている服だって、元々古着で汚れている上、洗濯なんて滅多にしないから異臭を放っていたし。

髪はべたべた。皮膚は垢まみれ。不潔の極みであった。

自分では気づいていないものの、相当悪臭がした。

そりゃまず風呂にぶちこもうとする気持ちも分かる。

この状態のアリューシャを風呂になんか入れたら、バスルームが悲惨なことになりそうだ。

けれどもアリューシャはそんなことにも気づかず、シュスリー、改めシュシュリーに連れられ、バスルームに向かった。
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