The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
その翌日から、アリューシャへの教育が始まった。

一言で言うなら、それはそれは大変なものだった。

何せアリューシャはそれまで、まともな教育など一切受けてこなかった。

学校に行っていないだけじゃない。普通二歳や三歳の子が当たり前にされる基本的な躾さえ、されていなかったのだ。

お風呂は毎日入るとか。手掴みでがっついて食べちゃいけないとか。言葉遣いに気をつけるとか。

普通の子供なら五歳までに躾けられているであろうことを、アリューシャは十歳を過ぎて、一から教えられた。

けれども、今まで十年間野生児のように、自由奔放に生きてきたアリューシャにとっては、誰かに自分の行動を指示されるというのは堪らなく不快なことだった。

更に、アリューシャは大人しく椅子に座っているということも出来なかった。

30分もじっとしていると、むずむずして、身体を動かしたくなるのだ。

読み書きも教えてもらったけど、集中して勉強するということが出来ないものだから、なかなか身に付かなかった。

『Sanctus Floralia』の皆は、あれこれ手を替え品を替え、アリューシャに知識を詰め込もうと努力してくれた。

でも、アリューシャは上手くそれについていけなかった。

正直、あまり楽しくはなかった。

それはそうだ。今までは自分の行動を誰かに命令されることはなかった。全部自分で考えて、自分で決めて生きてきた。行きたいところに好きなときに行って、嫌になったらやめた。

不自由なことは色々あったけど、でも自分の行動だけは自由そのものだった。

しかし、シュスリーに拾われてからは、それが全く逆になった。

身の回りのことはシュスリー達が皆やってくれるので、食べ物や寝るところに困ることはない。

そして、身体的な不自由を感じながらも、それでもアリューシャが逃げ出さなかったのは、それが理由であった。

ここにいれば食べ物に困らない。ゴミを漁ったり、雑草を食べたりしなくても良い。

そして、何より。

ここにいたらアリューシャは、名前を呼んでもらえた。

名無しだけど。名無しって呼ばれるんだけど、でも誰かに呼ばれることが、アリューシャにとっては重要なことだったのである。
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