The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
当然ながら、シュスリーは上手かった。

撃った弾は全て、的のど真ん中を射抜いていた。

アリューシャは、思わずぽかーんとしてしまった。

「どんなもんよ」

どや顔のシュスリー。

腹は立つけど、でも上手いから文句も言えない。

「何でシュスリー…そんなに上手いんだよ」

「え?こればっか練習したから。私これだけしか上手くないよ。唯一の取り柄って奴」

「…」

これが、唯一の取り柄?

とてもそうは思えない。だってシュスリー…。スプーンの使い方も知ってるし、読み書きも出来る。

小学生でも出来る、たったそれだけのことでも、アリューシャにとっては物凄く高度な技術を身に付けているように見えたのである。

「何もかも上手くなくて良いんだよ、名無し君。人間、一つでも人に誇れる取り柄があったら立派なもんだ。何でも出来る完璧な奴になろうとするなよ。そんな奴は総じて、詰まんない人間だからな」

「…ふーん…」

一つでも…取り柄があれば、か。

アリューシャの取り柄って、何だろうなぁ。

するとシュスリーは立ち上がって、ライフルを指差した。

「さぁ、ほら。名無し君、もう一回やってみな」

え。

もうやる気なくなってんだけど?

「良いけどさ…。もうやる気なくなってるから絶対外すよ」

そもそも、どれだけやる気に満ち溢れてたって外すと思うんだよな。

一朝一夕でどうにかなるもんじゃないよ。

「良いよ、外しても。百万回外しても一億回外しても良い。熟練のスナイパーだって、本番の一発を当てる為に練習で何万回と外してるんだ。外したって何も恥ずかしいことなんかじゃない」

「…」

「さぁ、やってごらん」

…そんな風に言われたら、嫌だとは言えなかった。

アリューシャはその後、外しまくった。奇跡で一回的の隅っこを掠めたけれど、真ん中にクリーンヒットなんて夢のまた夢だった。

けれどもアリューシャは、それを恥ずかしいことだとは思わなかった。

恥ずかしいなんて、思うはずがない。

ゴミ漁りをしていたときでも、物乞いをしていたときも、アリューシャは自分を惨めだとか恥ずかしいだとか、そんなことは考えなかった。

だって、一生懸命だったから。

この、狙撃の練習だってそう。

一生懸命やったことなら、そんな自分を恥ずかしいなんて思わない。

一つだけ取り柄のある人間になるなら、アリューシャはこの道を極めたいと思った。

それがどんなに過酷な道でも。アリューシャに向いていなかったのだとしても。

でも、シュスリーが極めたことだから。

アリューシャもまた、同じ道を歩いてみたい。

そう思ったからアリューシャは、スナイパーになることを決意したのだ。
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