The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
アリューシャはその日、初めて人を殺した。

思ったより簡単だった。いつも通りライフルを構えて、いつも通り狙って、いつも通り引き金を引いただけ。

いつもより的も大きくて、やりやすかった。

意外に楽なんだな~とさえ思った。

血飛沫をあげて倒れるターゲットをスコープで確認し、アリューシャは見事に仕事をやり遂げたのだと確信した。

これがアリューシャの、記念すべき初仕事だった。




「…チビ公。怖かったかい?」

現場から撤収してすぐ。

シュスリーは、アリューシャの仕事ぶりを責めるでも褒めるでもなく、そう尋ねてきた。

…怖い?

「いや…怖くないよ」

そもそも人生のうちで、怖いと思ったことってほとんどない。

もしかしたら結構あったのかもしれないけど、そういう記憶は大概忘れちゃうから。

「じゃあ、楽しかった?」

「楽しい…訳でもないなぁ」

でも、不快って訳でもない。

あくまで、これは仕事だ。

アリューシャはあのターゲットが憎かった訳でも、殺したかった訳でもない。

ただ、仕事をしただけなのだ。

それだけだった。

「そうか…。チビ公、君は私よりもずっとマフィアに向いてるね」

「…?それ、皮肉か何か?」

「純粋に褒めてるんだよ。その点では、君が羨ましい」

「…」

羨ましいって、何だよ。

「羨ましいのはこっちなんだけど?」

「何で?」

「シュスリーの方がずっと狙撃上手いし…。あ、それとシュスリーの使ってるライフルめっちゃ格好良いし性能も良い」

これは純粋に羨ましい。

アリューシャが当時使っていたライフルはシュスリーのお下がりで、型もちょっと古かったから。

「そりゃあね。私の方が上手いもん。上手い奴が良い武器を使う。鉄則だろ?」

「あーはいはい。そうですね」

小馬鹿にしてくるのやめろ。性根悪いなこいつ。

「いつかチビ公も私ほどに上手くなったら、同じものを使わせてあげるよ。だからもっと精進しな」

「…分かったよ」

アリューシャの唯一の取り柄は、狙撃だけだったから。

シュスリーみたいになりたいから。

その一心で、アリューシャは毎日、訓練を続けた。

















「…この子は、私には勿体ないほど…良い子過ぎるよ」

シュスリーはアリューシャに聞こえないように、ぽつりとそう呟いた。






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