The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
ただ、アシュトーリアさんに引き合わせる前に、まず私が会っておく必要があった。

もしアシュトーリアさんに強い敵意を持っていたとしたら、彼女に会わせる訳にはいかない。

そう思って、私はその暗殺者…つまり、アリューシャに会いに行ったのだ。

彼は『青薔薇連合会』の地下室、つまり…拷問室に閉じ込められていた。





「…はぁ…」

「…」

「…暇だな…」

「…」

実は、これがアリューシャとのファーストコンタクトであった。

血の染み付いたコンクリートの上で、手枷と足枷によって四肢を拘束され、拷問室に閉じ込められているというのに。

アリューシャは呑気な顔で、暇だな~なんて言っていた。

マフィアの拷問室に入れられたという自覚はあるのか。

しかし、それよりもずっと驚いたことは。

彼が、ほんの子供であったことだ。

…いや、子供であることに関しては私も人のことは言えないが…それにしたって幼過ぎやしないか。

私より年下じゃないか。

この幼い少年が、あれだけの正確な狙撃をやってみせたのか?

だとしたら、彼は…。

…ともかく、まずは話をしてみなければ。

「…君。マフィアの拷問室に入れられた自覚はあるの?」

「え~…。ない」

なかった。

そうか…。ないのか。それなら仕方ない。

冗談言ってるんじゃないんだぞ。

「しかも、君はうちのボスを殺そうとした」

「したね…」

「何か弁明は?」

「…」

アリューシャはしばし黙って、私の質問には答えず、自分の質問を投げ掛けてきた。

「…あのライフル、捨てたの?」

「は?」

ライフルって言ったら…。

「君の持ってたライフルのこと?」

「うん。あれ捨てたの?」

「押収して、そのまま保管してる」

うちのスナイパーによると、かなり良いライフルだということだ。

例えこの子供を殺したとしても、あのライフルはうちで再利用するなり、売却するなりするつもりだ。

「そうか…。あれ、思い出のライフルだから壊さないでね」

「…」

心配するのは自分じゃなくて、ライフルの方なのか。

随分余裕だな。

少しくらい脅してやろうと思っていたのに…なんだか毒気を抜かれる。

「…君、自分が捕虜なんだってことが分かってないみたいだけど…」

「うーん…。だってどうせ殺されるんでしょ?せめて楽に殺してよ。一思いにさ。それと…出来ればうちの組織の人には、何もしないであげて欲しいんだけど…駄目かね?」

「駄目だね。残念ながら…と、言いたいところだけど」

アシュトーリアさんの命を狙おうとした人間は、組織ごと潰すのが鉄則。

しかし今回は…そうもいかないのだ。

「『Sanctus Floralia』の本拠地を襲撃した。でも…そこはもぬけの殻だった。君のお仲間は一人残らず消えたよ。捜索は続けてるけど、尻尾すら掴めない。君、捨てられたね」

「…」

これでもう、『Sanctus Floralia』の彼の仲間が助けに来るということはなくなった。

少しはショックを受けるかと思ったのだが、彼は表情を変えなかった。
< 265 / 561 >

この作品をシェア

pagetop