The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
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Ⅰ (28/39)
非常におかしい。
ルルシーが、勝手に二度目のスパイになろうとしている。
「何でルルシーで決定なんですか」
アシュトーリアさんが、ルルシーにお願いするわ、と言ったなら仕方ないが。
俺達のどちらかに、なのだから俺にだってなる権利はあるじゃないか。
しかし。
「お前には向いてないからだ」
ルルシーはきっぱりとそう言った。
「酷い。俺に才能がないと?スパイの才能なしだと?ルルシーはそう言うんですか?」
「違う。お前に騎士官学校なんて、行かせられるはずがないだろ」
「…」
思い出すのは、俺の帝国騎士官学校時代。
あの頃の俺を知っているルルシーは、俺を再び騎士官学校に送り込むなんて、そんなことは出来ないと。
そう言いたい訳だな。
なんてことだ。ルルシーのあまりの優しさに、俺は溶けてしまいそうである。
「別に大丈夫ですよ。帝国騎士官学校じゃないんでしょう?」
「えぇ。私立の騎士官学校よ」
じゃあ、大したことはないな。
「ほらほら。余裕じゃないですか~。俺が行きますよ。俺が」
「…とは言ってもな。お前を野に放つと…ろくなことにならんし…」
「ちょっとルルシー!優しさを見せておいてそのいきなりのボディブローは何ですか!」
かなり傷ついたんですけど!?
俺をまるで、歩くフェロモン製造機みたいに。
「大丈夫ですって。俺だって昔はうぶなチェリーボーイだったんですから。あの頃のピュアな気持ちを思い出して、素晴らしく健全な高校生を演じてみせますよ」
と、俺は目をきらきらさせながらルルシーに訴えたのに。
「…いや…やっぱり無理な気がするな」
「酷い!」
ルルシーは何だ。俺のこと、性欲大魔人だと思ってるのか。
間違ってはいないが、親友に対してそれはあんまりではなかろうか。
「ルルシーが行くなんて嫌ですよ~。ルルシーに変な虫がついたらどうするんですか~」
「変な虫って…。どうせ校舎は男女別だろうに」
「あ、その騎士官学校って、男女共学だそうよ。珍しいわね」
アシュトーリアさんのこの一言で、全てが決着した。
「分かりました。じゃあ俺が行きますね」
俺は、にっこりと笑顔で言った。
「は?いやちょっと待て。何でお前が」
「有り得ない。ルルシーが男女共学の学校に行くなんて有り得ない。俺のルルシーにゴミが付着するなんて、考えただけで消したくなりますもんね…?」
「…」
目をぎらぎらと妖しく光らせて、殺気を滲ませた声で言うと。
ルルシーは無言で、視線を逸らした。冷や汗をかいていた。
よし。これで決まりだな。
「じゃあ、ルレイアが行くことに決まりね。準備を進めましょう」
「はーい」
こうして俺は、円満にランドエルス騎士官学校への転入を決めた。
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