The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
まず、我が家にはお父さんがいなかった。

これも幼い頃から、不思議に思っていた。

よその家には、お父さんとお母さんがいる。それなのに、うちにはいない。

私のお父さんは何処にいるんだろう?

これもお母さんに尋ねてみた。けれど、お母さんは煙草をすぱすぱと吹かしながら、知らない、とだけ答えた。

小さい頃は、きっと言えば私が傷つくと思って内緒にしてるんだ、と思っていた。

でも、今思えば…知らないというあの言葉は、本当のことだったんじゃないかと思う。

当時から、お母さんはよく家を留守にしていた。何処に行っていたのか、お仕事だろうと思っていたけど。

あれは多分、仕事なんかではない。そもそもお母さんはまともに定職に就いてはいなかった。

あちこち色んな男と遊び歩き、その男にお金をもらっていたのだ。

私の父親が誰なのか、分からないのも無理はない。

そういう母親だった。幼い子供を家に残して、自分は夜な夜な彼氏と遊びに行く。そういうことが平気で出来る人だった。

とはいえ、幼い頃の私にとって…そんな母親は、さしたる脅威ではなかった。

私を大事にはしてくれなかったし、可愛がってもくれなかったけど。

それでも、母親に対する憎しみはそれほどではない。憎んではいるけど殺したいほどではない。

それより私が憎んでいるのは、兄だった。

小さい頃から、私は兄に対して嫌悪感しかなかった。
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