The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
そんな私が逃避したのは、物語の世界だった。

私は幼い頃から、寂しい気持ちを埋める為に、空想の世界に逃避していた。

私が好きだったのは、シンデレラとか白雪姫とか眠り姫とか、女の子が好みそうな童話だった。

物語の中には、お姫様を助けてくれる素敵な王子様がいて。

必ず最後は、「お姫様と王子様は、いつまでも仲良く暮らしました」という一文で終わっていた。

自分の境遇を主人公のお姫様と重ねて、今は辛くても、いつか必ず、素敵な王子様が助けに来てくれる。

そんな妄想に逃げ込んで、辛い気持ちを慰めていた。

今でこそ、それがいかに馬鹿げていたかよく分かる。

けれども当時の私には、分からなかった。

いつか自分を助けてくれる人がいるのだと、信じて疑っていなかった。

信じなければ、生きていけなかった。

それだけ、毎日が苦痛の連続だった。

助けてくれる人なんていなかった。

お母さんは家に帰ってこない。兄の他に兄弟はいない。

親戚とは絶縁状態で、会ったこともない。

学校に友達はいたけど…でも、友達だと思っていたのは私だけだったようで。

小学校高学年くらいのとき、仲の良かった女の子に家でのことを相談したことがあるが。

絶対誰にも言わないでね、と伝えたし、向こうも約束してくれたはずなのに。

翌日には、私のことがクラス中の噂の種になっていた。

「あいつは実の兄とキンシンソウカンしてる」と。

どういうことなのかと、女友達に詰め寄ったが。

彼女は噂を流したのは自分じゃないと言い張った。

あの子にしか話してないのに、他に誰が噂を流すというのか。

結局、救いを求めて相談したが故に、余計に傷つく羽目になった。

クラスメイトにからかわれ、汚いもの呼ばわりされ、友達まで失った。

そんな私が逃げ込む場所なんて、空想の世界以外、何処にもなかった。
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