The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
事が終わると、兄は私の隣に転がって、荒い息を吐いていた。

私は逃げるようにベッドから這い出して、激痛に悲鳴をあげる身体を軋ませながら、裸のまま床を這って、兄から逃げようとした。

そのとき既に、私の心は決まっていた。

泣きながら床を這って、私はキッチンに向かった。

真っ直ぐにキッチンに向かって、手に取ったものは包丁だった。

そう。私はその包丁で、兄を殺すつもりだった。

私に対して犯した罪を、命を以て償わせるつもりだった。

そして、そうしなければ…私はきっと、これから毎日、こんな目に遭う。

一度やったら、もう二度やっても三度やっても同じこと。

兄はこれから毎晩のように、私をあんな風に汚すつもりなのだ。

今までだって、ずっと耐えてきたのだ。

もうこれ以上、耐えることなんて出来ない。

私は震えながら、包丁を持ったまま自分のベッドに戻った。

兄はそこで、満足そうに鼾をかいて眠っていた。

そんな兄が堪らなく憎かった。私にあんなことをしておいて、悪びれもしない兄が。

この男に、後悔させてやる。

私の味わった苦しみを、こいつにも味わわせてやる。

私は躊躇いなく、包丁を兄の胸に突き刺した。

ぐちゃ、と肉が裂ける嫌な音がした。

兄は驚いて、目を大きく見開いた。

その目がぎょろり、と私を見た。

兄の手がこちらに伸ばされるのを見て、私は怖くなった。

殺さなきゃ、殺される。

そう思った。だから私は包丁を引き抜いた。

引き抜いて、そして再び振り下ろした。

血飛沫が飛んで、私の顔に兄の血が飛び散った。

なんとも思わなかった。ただ、目に血が入って、視界が歪むのが不快だった。

何度も何度も、包丁を引き抜いては振り下ろした。その度に、ねばつくような音が耳に届いた。

殺さなきゃ。殺さなきゃ。殺される前に殺さなきゃ。

頭の中はそれだけだった。

兄がとっくに絶命して、血塗れになって、胸から腹にかけてぐちゃぐちゃの肉の塊になっていることにも気づかず。

私は10分くらいずっと、兄の死体に包丁を突き立て続けていた。
< 324 / 561 >

この作品をシェア

pagetop