The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
気がついたときには、兄はただの肉塊になっていた。
包丁を握る私の手は、兄の血で真っ赤になっていた。
「…」
兄が死んでいるのは明らかだった。
ぐちゃぐちゃになった死体を見て、私は初めて、自分が何をしたのか理解した。
…私、自分の兄を殺したんだ。
「…あはは…」
私は笑った。兄の死体を前に、私は満足げに笑ってみせた。
私を散々痛め付けた、その罰が下ったのだ。
ざまぁみろ。
私はやり遂げた。この醜悪な男に、鉄槌を下してやったのだ。
あれだけのことをしたのだから、殺されても文句は言えまい。
素直に嬉しかった。もう二度とあんなおぞましい行為を強要されることはない。
そう思うだけで、気分が高揚した。
身体の痛みも忘れ、私は包丁を放り出し、浴室に向かった。
兄の汚い体液と手垢、そして血を洗い流したかったのだ。
お風呂から上がると、私は自分の部屋に戻った。
そこには、兄の死体が転がっていた。
その頃には、私も冷静になっていた。
このまま家にいたら、兄の死体は腐り、いずれ見つかってしまう。
人を殺した、それも実の兄を殺したとなれば…ただでは済まされないことは分かっていた。
それに私は、どんな罰を受けさせられたとしても…兄を殺したことを、悔いて反省するなんて出来なかった。
これは、今でも出来ない。
兄を許すことも。兄殺しの罪を償うことも。
一生かけても、出来ないと思った。
それに、母。
あの人は私が兄を殺したと知れば、怒り狂うはずだ。私を許さないはずだ。
だからどのみち、私はもうこの家にはいられない。
なら、兄を殺したことがばれる前に、家から出ようと思った。
私はボストンバッグを物置から引っ張り出し、最低限家出に必要な荷物を詰め込んだ。
それから兄の部屋を家捜しして、ありったけの現金をかき集めた。
大した額ではなかった。けれど代わりに、私は兄の大量のゲーム機やソフト、タブレット端末を持ち出した。
これらを全て売り払えば、そこそこの金額にはなるだろうと思ったのだ。
それから、母の寝室にも行って、母が持っていたアクセサリーや時計を盗んだ。
これも一緒に売ってしまおう。
母の化粧品もたくさん持ち出した。化粧品はさすがに売り払えないが…これからの私には、必要だと思ったのだ。
最後に、私は兄の死体にありったけの毛布や布団を被せて、家中の窓をきっちりと閉めた。
少しでも腐臭が外に出ないように、少しでも発見が遅れるようにと思ったのだが…今思えば、そんなに効果があったとは思わない。
確実を期すなら、死体をばらばらにして冷蔵庫にでも入れておけば良かったのだが。
子供にはそんな考えは及ばなかったし、それに…これ以上兄の身体になんて、例え死体といえども、触りたくなかったのだ。
このようにして、私は僅かな荷物だけを持って、家を出た。
あれ以来、自分の生まれ育った家には一度も帰っていない。
包丁を握る私の手は、兄の血で真っ赤になっていた。
「…」
兄が死んでいるのは明らかだった。
ぐちゃぐちゃになった死体を見て、私は初めて、自分が何をしたのか理解した。
…私、自分の兄を殺したんだ。
「…あはは…」
私は笑った。兄の死体を前に、私は満足げに笑ってみせた。
私を散々痛め付けた、その罰が下ったのだ。
ざまぁみろ。
私はやり遂げた。この醜悪な男に、鉄槌を下してやったのだ。
あれだけのことをしたのだから、殺されても文句は言えまい。
素直に嬉しかった。もう二度とあんなおぞましい行為を強要されることはない。
そう思うだけで、気分が高揚した。
身体の痛みも忘れ、私は包丁を放り出し、浴室に向かった。
兄の汚い体液と手垢、そして血を洗い流したかったのだ。
お風呂から上がると、私は自分の部屋に戻った。
そこには、兄の死体が転がっていた。
その頃には、私も冷静になっていた。
このまま家にいたら、兄の死体は腐り、いずれ見つかってしまう。
人を殺した、それも実の兄を殺したとなれば…ただでは済まされないことは分かっていた。
それに私は、どんな罰を受けさせられたとしても…兄を殺したことを、悔いて反省するなんて出来なかった。
これは、今でも出来ない。
兄を許すことも。兄殺しの罪を償うことも。
一生かけても、出来ないと思った。
それに、母。
あの人は私が兄を殺したと知れば、怒り狂うはずだ。私を許さないはずだ。
だからどのみち、私はもうこの家にはいられない。
なら、兄を殺したことがばれる前に、家から出ようと思った。
私はボストンバッグを物置から引っ張り出し、最低限家出に必要な荷物を詰め込んだ。
それから兄の部屋を家捜しして、ありったけの現金をかき集めた。
大した額ではなかった。けれど代わりに、私は兄の大量のゲーム機やソフト、タブレット端末を持ち出した。
これらを全て売り払えば、そこそこの金額にはなるだろうと思ったのだ。
それから、母の寝室にも行って、母が持っていたアクセサリーや時計を盗んだ。
これも一緒に売ってしまおう。
母の化粧品もたくさん持ち出した。化粧品はさすがに売り払えないが…これからの私には、必要だと思ったのだ。
最後に、私は兄の死体にありったけの毛布や布団を被せて、家中の窓をきっちりと閉めた。
少しでも腐臭が外に出ないように、少しでも発見が遅れるようにと思ったのだが…今思えば、そんなに効果があったとは思わない。
確実を期すなら、死体をばらばらにして冷蔵庫にでも入れておけば良かったのだが。
子供にはそんな考えは及ばなかったし、それに…これ以上兄の身体になんて、例え死体といえども、触りたくなかったのだ。
このようにして、私は僅かな荷物だけを持って、家を出た。
あれ以来、自分の生まれ育った家には一度も帰っていない。