The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
私は、乏しい逃亡資金を全て使って、とにかく家から遠く離れた。

家から遠く離れることで、思い出したくない過去を置き去りに出来るような気がしたから。

特に目的があった訳ではないが、私は帝都を目指した。

帝都の方が、人もたくさんいて、家出少女である私も紛れ込みやすいと思ったのだ。

そして、実際その通りだった。

あれ以来私はずっと帝都にいる。

帝都に来るまでに逃亡資金を使い果たした私が、どうやって生きていたのか。

家を出たときから、私は覚悟していた。

私のような少女が、一人で生きていく為にどうすれば良いのか。

私はルルシーと同じようなことをして、お金を稼いでいた。

もっとはっきり言うと、売春だ。

あんなに嫌がっていたのにどうして、と思うかもしれないが。

他に稼ぐ方法がなかったし、私は一度汚されてしまった女なのだから、今更惜しむ貞操もなかった。

帝都の路地裏に潜み、夜になると繁華街に出て、めぼしい男に声をかけた。

大抵の男が、私の若さに釣られて、あっさりとホテルに連れ込むことが出来た。

時には私がそういう女だと見込んで、向こうから声をかけて来る人もいた。

ほとんどの場合、やることをやって、その後言い値通りのお金をくれて、時にはチップもくれて…それでおしまいだった。

けれど、そう上手く行かないときもあった。

暴力行為はなしと伝えたのに、殴ったり、酷く乱暴にしたりする男もいた。

そういう男に引っ掛かったときは、私は容赦なく、その人を殺した。

簡単だった。服の袖に隠していたカッターの刃で、首の動脈を掻き切った。

あるいは、スカートのポケットに隠していたスタンガンで気絶させ、その上で頸動脈を切った。

私は自分の身を守る術を、身に付けていた。

身体を売ることにも、相手を殺すことにも…罪悪感はなかった。

あるのは、男達に対する嫌悪感だけだった。

街で女を買い、金で相手をさせる男のなんと醜いことか。

それで金を稼いでいる私が言うのも、おかしな話だが…。

街で売春をしていた頃、私はすっかり男嫌いになっていた。

男なんて、汚いし、乱暴だし、理性的なところなんて欠片もない。

男という生物は総じて、性欲の塊。欲を満たせればそれで良い。ちょっと女性に優しくされただけで鼻の下を伸ばして、それなのに女性を馬鹿にして力で支配しようとする、強欲な生き物。

私が今まで会った男は、全員がそうだった。

身体を触られても、何をされても、快感なんて微塵もない。気持ち悪い、汚いとしか思わなかった。

お金をくれるから相手しているだけだ。お金をくれないなら、誰があんな生き物に身体を触らせることか。

たまに善人面をして、「住むところがないなら、うちにおいでよ」と言う男もいた。

養ってくれるなら何でも良いと思ったら、その男も結局は、養う代わりに身体での見返りを要求してきた。

帰ってきたときいつでも抱ける、便利な家政婦さんが欲しかっただけ。

そういう男は、搾れるだけ搾り尽くして、適当に搾取したら、殺していた。

勿論罪悪感なんてない。こんな汚い男、殺して数を減らした方が世の為だとすら思っていた。

男なんて、皆死んでしまえば良いのに。

よくそんなことを考えていた。
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