The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
『青薔薇連合会』と言えば、私も名前くらいは知っていた。

ルティス帝国で最も大きなマフィア。

私は、そのマフィアの構成員に声をかけてしまったというのか。

そして、今から…そこの首領に会わされる、と?

「…私を殺すの?どうするの?」

路地裏で暮らしている頃、何度か『青薔薇連合会』の縄張りを荒らして、報復として殺された人を見たことがある。

私もまた、あんな風にされるのだろうか?

それとも、もっと恐ろしいことをされるのだろうか。

私はマフィアの巣窟に連れてこられてしまった。何をされてもおかしくなかった。

「大丈夫だよ。誓って、悪いようにはしないから」

彼は再度そう言ったが、私はまるで信じていなかった。

枯れ枝のように身体が震えていた。

何をされるのだろう。どんな恐ろしい目に遭わされるんだろうと考えていた。

考えているうちに、エレベーターが最上階に到着した。

「さぁ、おいで。大丈夫」

その人に導かれ、私は重厚な扉の向こうに連れていかれた。

マフィアの首領と言うのだから、きっと研ぎ澄まされたナイフのような恐ろしい人なのだろう。

私はそう思っていた。

しかし。

「こんばんは、アシュトーリアさん。戻りました」

「まぁ、アイズ。お帰り…あら?そちらのお嬢さんは?」

中にいたのは、優雅にティーカップを傾ける、貴婦人のような優しげな若い女性だった。

…この人は?

首領のお付きの人…?奥さんだろうか。

あくまでも、その人がマフィアの首領だとは思っていなかった。

と言うかこの男の人、アイズって名前だったんだ。

「えぇ、ちょっと…。アシュトーリアさんに紹介したいと思いまして」

「まぁ、もしかしてアイズのお嫁さん?」

「違います」

「なぁんだ、違うの…」

何故残念そうなんだ。

「それで?その子は?」

「街で見つけたんですけど…。どうやら、行く宛もないし家族もいないそうで。それに…うちに相応しい人だ、と思ったもので」

「確かにねぇ」

相応しい?

私が?何に…?

「分かったわ。うちで面倒を見ましょう」

「ありがとうございます。それでは…」

「あぁ、待って。折角だから二人きりで話したいわ。お茶とケーキを持ってくるように頼んでくれる?」

アイズが私を連れて踵を返そうとしたところを、彼女が止めた。

…二人きりで話したい、だって?

誰が、誰と?

「…宜しいのですか?」

「勿論宜しいわ。良いでしょう?アイズ」

「…分かりました」

はぁ、と溜め息をついて、彼は私に振り向いた。

「アシュトーリアさんが話したいって。滅多なこと言わない限りは大丈夫だと思うから、適当に相手してあげて」

「えっ!?」

私が、この女の人と?

二人きりで話?

何でそんなことに?と言うか…マフィアの首領というのは何処に?

あくまで私は、アシュトーリアさんを首領の奥さんだと思っていた。

「大丈夫。後で迎えに来るから」

一体何が大丈夫なのか分からないまま、私はアシュトーリアさんと、二人で執務室に取り残されてしまった。
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