The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
「そう…。大変だったのね」

話を聞き終えて、彼女はまず、そう言った。

大変だった…か。

確かに大変だった。毎日、本当に大変だった。

普段は色んなことに追われていて、思い出す時間もないけれど。

振り返ってみると、確かに苦しい毎日だった。

私は何もかも喋った。兄にレイプされたこと、その兄を殺したこと、街で売春をして稼いでいたこと、何人もの男を殺したことも。

その上で、彼女は私に、労いの言葉をかけてくれた。

「まだ若いのに…本当によく頑張ったわね」

彼女は立ち上がって、そっと私を抱き締めた。

「やめ…やめてください。私は、汚い人間で」

「汚くなんてないわ。女の子が、一人で…立派に、たくましく生きてきたんだもの」

まるで小さい子供にするみたいに、ぽんぽんと背中を優しく叩かれた。

記憶にある限り、そんなことをされたのは初めて…私はどう言えば良いのか分からなかった。

「あなたは強くて賢い、気高い女の子よ。そこらの小娘には出来ることじゃないわ」

「…私は…」

「大丈夫よ。あなたは何も間違ってない。勇気のある選択をしたのよ。本当に…よく頑張ったわ」

気がついたら、ぽろぽろと涙の滴が流れていた。

…よく頑張ったね、なんて。

そんなありきたりな言葉なのに。特別な言葉なんかじゃないはずなのに。

どうして…こんな気持ちになるのだろう。

私は、こんなにも…誰かに認めてもらいたかったんだ。

よく頑張ったねって、言って欲しかったんだ。

「もう大丈夫だからね。ここがあなたの居場所。もう辛い思いをすることはないわ」

あのとき、私がアシュトーリアさんに出会えたことで、どれほど救いになったか。

アイズレンシアが私を拾い、そしてアシュトーリアさんが、私に居場所をくれた。

そのお陰で、私はあれ以来、自分の身体を売ることなく生きていくことが出来ている。

アシュトーリアさんは私の恩人である。

だから私は、アシュトーリアさんに尽くそうと心を決めた。

彼女の為に命を捨てることなど惜しくないし、彼女を傷つけようとする者は、絶対に許さない。

アシュトーリアさんが、私を救ってくれたように。

私もまた、アシュトーリアさんを守るのだ。

そう、固く心に決めた。

今も、その気持ちは変わっていない。
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