The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
「アシュトーリアさん!」
「あら、シュノ。どうしたの?」
彼女の執務室に向かうと、相変わらずアシュトーリアさんは優雅な所作で紅茶を啜っていた。
元々こういう人ではあるが、あまりの危機感のなさに、少し苛立った。
この人は、楽観的過ぎる。
「帝国騎士団の隊長を『連合会』に入れるというのは本当ですか!?」
「あぁ、あなたも聞いたのね。そう、本当よ。正しくは…元、帝国騎士だけどね」
元だろうが現役だろうが、私にとっては大した違いなんてない。
帝国騎士団と言ったら、私達の敵じゃないか。
何故、わざわざ敵であった人間を組織に引き入れなければならないのか。
「考え直してください。元帝国騎士なんて…あまりにも危険です」
「大丈夫よ。ルルシーを助けてくれた子だもの。それに…話してみたけど、なかなか面白い子だったわ」
面白い、だって?
アシュトーリアさんは、元帝国騎士団の隊長をマフィアに入れることの意味について、本当に分かっているのか?
「何かの罠かもしれないじゃないですか。帝国騎士団を辞めさせられたということにして、スパイとしてうちに潜り込んで情報を売るつもりかもしれない」
「その可能性はあるけど、でも限りなくゼロに近いわ。状況からして、彼が帝国騎士団をクビになったのは明らかよ」
「それさえ敵の策のうちである可能性も…」
「あるわね。でも私は大丈夫だと思うわ」
何だって、そう言い切れるのか。
男なんて、平気で嘘をつく生き物なのに。
「危険です、アシュトーリアさん。味方の振りして近づいて、アシュトーリアさんの命を狙っているかもしれないのに」
「シュノは心配性ねぇ」
「アシュトーリアさんが、楽天的過ぎるんです」
たしなめるつもりでそう言ったのに、アシュトーリアさんはにこにこと笑うばかりだった。
…危ないって言ってるのに、何で分かってくれないんだ。
「良いわ、シュノ。私のことが心配なら、私の代わりにあの子を監視してちょうだい」
「はっ?」
名案、とばかりにぱんと手を打って、アシュトーリアさんはそう提案した。
「あの子が何か怪しい動きを見せたら、すぐに報告してちょうだい。あの子はあなたの部下につけることにするわ」
「な…!私が、ですか?」
「そうよ。彼の真意が何なのか、あなたが見極めて」
そ、そんな…。
そんなつもりで、直談判しに来た訳じゃないのに。
「で、でも…。私は男の人なんて…」
「彼は大丈夫よ。優しげだし紳士的だわ。あなたにとっても、大きな転機になるかもしれないわね」
「…分かりました」
驚いたけど、でも…彼を近くで監視出来ると思えば、良い機会かもしれない。
必ず、彼の企みを暴いてやる。
あるいは、何も企んでいなかったのだとしても…。温室育ちの元貴族ということだから、きっと、興味本位でマフィアに入ろうなんて言い出したのだろう。
マフィアというのがどういうものなのか、私が教えてやるのだ。
生半可な覚悟ではやっていけない。それを分からせてやれば、泣いて逃げ帰っていくはずだ。
アシュトーリアさんは、これが私の転機になるかもしれない、なんて言うけれど。
馬鹿馬鹿しい、そんなことは絶対に有り得ない。
私は、そう思い込んでいた。
今思えばアシュトーリアさんは、全て分かった上で、彼を私の下につけたのかもしれない。
「あら、シュノ。どうしたの?」
彼女の執務室に向かうと、相変わらずアシュトーリアさんは優雅な所作で紅茶を啜っていた。
元々こういう人ではあるが、あまりの危機感のなさに、少し苛立った。
この人は、楽観的過ぎる。
「帝国騎士団の隊長を『連合会』に入れるというのは本当ですか!?」
「あぁ、あなたも聞いたのね。そう、本当よ。正しくは…元、帝国騎士だけどね」
元だろうが現役だろうが、私にとっては大した違いなんてない。
帝国騎士団と言ったら、私達の敵じゃないか。
何故、わざわざ敵であった人間を組織に引き入れなければならないのか。
「考え直してください。元帝国騎士なんて…あまりにも危険です」
「大丈夫よ。ルルシーを助けてくれた子だもの。それに…話してみたけど、なかなか面白い子だったわ」
面白い、だって?
アシュトーリアさんは、元帝国騎士団の隊長をマフィアに入れることの意味について、本当に分かっているのか?
「何かの罠かもしれないじゃないですか。帝国騎士団を辞めさせられたということにして、スパイとしてうちに潜り込んで情報を売るつもりかもしれない」
「その可能性はあるけど、でも限りなくゼロに近いわ。状況からして、彼が帝国騎士団をクビになったのは明らかよ」
「それさえ敵の策のうちである可能性も…」
「あるわね。でも私は大丈夫だと思うわ」
何だって、そう言い切れるのか。
男なんて、平気で嘘をつく生き物なのに。
「危険です、アシュトーリアさん。味方の振りして近づいて、アシュトーリアさんの命を狙っているかもしれないのに」
「シュノは心配性ねぇ」
「アシュトーリアさんが、楽天的過ぎるんです」
たしなめるつもりでそう言ったのに、アシュトーリアさんはにこにこと笑うばかりだった。
…危ないって言ってるのに、何で分かってくれないんだ。
「良いわ、シュノ。私のことが心配なら、私の代わりにあの子を監視してちょうだい」
「はっ?」
名案、とばかりにぱんと手を打って、アシュトーリアさんはそう提案した。
「あの子が何か怪しい動きを見せたら、すぐに報告してちょうだい。あの子はあなたの部下につけることにするわ」
「な…!私が、ですか?」
「そうよ。彼の真意が何なのか、あなたが見極めて」
そ、そんな…。
そんなつもりで、直談判しに来た訳じゃないのに。
「で、でも…。私は男の人なんて…」
「彼は大丈夫よ。優しげだし紳士的だわ。あなたにとっても、大きな転機になるかもしれないわね」
「…分かりました」
驚いたけど、でも…彼を近くで監視出来ると思えば、良い機会かもしれない。
必ず、彼の企みを暴いてやる。
あるいは、何も企んでいなかったのだとしても…。温室育ちの元貴族ということだから、きっと、興味本位でマフィアに入ろうなんて言い出したのだろう。
マフィアというのがどういうものなのか、私が教えてやるのだ。
生半可な覚悟ではやっていけない。それを分からせてやれば、泣いて逃げ帰っていくはずだ。
アシュトーリアさんは、これが私の転機になるかもしれない、なんて言うけれど。
馬鹿馬鹿しい、そんなことは絶対に有り得ない。
私は、そう思い込んでいた。
今思えばアシュトーリアさんは、全て分かった上で、彼を私の下につけたのかもしれない。