The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
初めて会ったとき、私は素直に、彼のことを格好良いな、と思った。

少なくとも、顔は悪くなかった。

しかし。

彼は私を見るなり、目のやり場に困るみたいな顔をして、視線をさまよわせていた。

というのも私はその頃、いつも髪を切ってくれていた部下(勿論女だ)が腕を骨折しており、ハサミが持てない為、仕方なく自分で髪を切ったのだ。

美容院などに行って、知らない人に髪を触られるのは嫌だったから。

だが、残念なことに見よう見まねではなかなか上手く行かず。

私の髪は、さながら落武者のようになってしまった。

自分で見てもヤバいと思うくらいなのだから、人から見たら余程おかしな風に映っていたに違いない。

しかし彼は、戸惑いはしたものの、私を笑ったり、嘲ったりするようなことはなかった。

むしろ、気にしないように努めていたようだった。

その時点で好印象を抱いても良さそうなものだが、ひねくれていた私は、「気取った振りをして、紳士を装っているだけ」だと判断した。

笑いたいなら笑えば良いものを。お高く止まって、感じ悪い。

ムカムカしながら、それでもこれが自分の役目だからと、私は彼に仕事を教えた。

ちょっとでもミスや不手際をしたら、こんなことも出来ないのか、とイビってやる気満々だった。

よくいるパートのお局さんみたいなことを考えていた。

しかし、彼は私の予想より遥かに、優秀な人間だった。

温室でぬくぬくとちやほやされながら育ってきたのだろうから、少しハードなことを要求されたら途端にべそをかくだろうと踏んでいたのに。

教えてあげたばかりのことでも簡単に呑み込んで、ごく短時間であっさりとこなしてしまうし。

それどころか私が説明していないことでも、「これはこういうことですか?」と自分で気づいていた。

これには私も驚いた。

よく考えたら、帝国騎士団の隊長ともなれば、『青薔薇連合会』で言えば幹部と同等の役職なのだから、元帝国騎士団隊長である彼が仕事の出来ない人間であるはずがないのだ。

後で気づいてはっとした。元貴族というだけで、自分では全く仕事をせず、部下に押し付けるだけの無能な上司だと思い込んだいたのだ。

とんでもない。まだ来たばかりなのに、彼は私よりも優秀なくらいだった。

悪いところを粗探ししてやろうと思っていたのに、文句のつけようがない。

何か一矢報いるようなことを言ってやりたいのに、でも何も言うことがなくて、ぐぬぬ、と引き下がるしかなかった。

おまけに、彼の良いところは、仕事が出来るという点に留まらなかった。
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