The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
出会ったときから思っていたことだが、彼は今まで出会ったどんな男性とも違っていた。

アイズにもアリューシャにも、ルルシーにもないものを、彼は持っていた。

彼には生まれつきの品位と言うか、生まれ持った高貴さが備わっていた。

こればかりは、名家の貴族に生まれた人間だからこそ持ち合わせているものなのだろうが。

身だしなみがきちんとしているのは勿論、いかなるときも気高く凛としているのに、話してみると物腰は柔らかくて、言葉遣いも丁寧。

周りのこともよく見ているし、私がどれほど彼に失礼な態度を取っても、嫌な顔一つしなかった。

最初は演技だと思っていた。今は我慢しているけど、女に馬鹿にされるなんてプライドの高い男は耐えられないだろうから、いずれ化けの皮が剥がれると思っていた。

でも、いつまでたっても彼は変わらなかった。

それどころか私の為に可愛い服を持ってきてくれたり、髪を綺麗に切ってくれた。

私はそれまで、自分の着る服にはあまり頓着しなかった。

誰に見せる訳でもなし、アシュトーリアさんは私が何を着ていても気にしないし、アイズ達も何も言わなかったから。

自分にどんな服が似合うかなんて考えたこともなかった。

けれども彼が初めて私の為に服を選んでくれ、それを着たとき、私は初めて、心が弾んだ。

可愛い服を着るって楽しいんだな、と思った。

可愛い服を着て、鏡で自分の姿を見て、それから周りの人にも可愛いと言ってもらえるのは、素直に嬉しかった。

髪の毛もそう。知らない人に髪を触られるのは嫌だったのだけど、不思議と彼に触られても嫌悪感はなかった。

彼が少しでも、嫌らしい手つきでべたべたと私に触れたとしたら、私は即座に彼の手を振り払って、二度と自分に触れさせなかったに違いない。

けれど彼は、一度として私をそういう目で見たことはなかった。

私が男嫌いだということを承知の上で、私に気を遣って接してくれているようだった。

仕事は出来る、気遣いも出来るとなれば、彼の欠点をあげつらうことは出来なかった。

彼の優秀さを、認めざるを得なかった。

それだけじゃない。

私は最初、彼を帝国騎士団のスパイと思っていた。

だが、見たところによると…彼がスパイだという仮説は、私の検討違いのようだった。

彼の帝国騎士団への憎しみは本物だった。私や仲間達には優しいのに、帝国騎士団に対しては激しく嫌悪していた。

更に、彼は元帝国騎士にしては、肝が据わっていた。

拷問を見ようが死体を見ようが、平然としていた。

素直に、良い人だな、と思った。

男の人に対して、こんな気持ちになったのは初めてだった。
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