The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
ルレイアに頼んで、初めて思いを伝えたとき。

彼は、私の求めに応じて、ベッドを共にしてくれた。

私は自分の中にある忌まわしい記憶に、ずっと悩まされてきた。

けれども、ルレイアがそれを上書きして、消してくれた。

彼が、特定の女性を愛することはないと分かっている。

どれだけ私が彼を愛しても、彼の心の中にあるのは帝国騎士団への憎しみと、ルルシーへの執着のみ。

それは分かっている。

そもそも私は、ルレイアの隣には相応しくない人間だ。

高貴で、高潔で、気高い彼の隣に相応しいのは、彼が選んだルルシーしかいない。

そんなことは分かっている。

彼が私の求めに応じてくれたのは、彼が優しいからだ。

それでも、私は嬉しかった。

ルレイアは男だけど、彼に身体を触られても、少しも嫌悪感はなかった。

むしろ心地良かった。

やっていることは兄のそれとほとんど変わらないのに、好きな人が相手だと、あんなに幸せな気持ちになれるのだと初めて知った。

誰かを好きになって、その人と一つになるのが、あんなに素敵なのだと。

私は行為の後で、自分の過去を詳細にルレイアに語った。

兄とのこと。街で売春をしていたことも。

しかしルレイアは、私を軽蔑したりはしなかった。

話を聞き終えて、彼はこう言った。

「…そのお兄さん、シュノさんに殺されて良かったですね。今も生きていたら、俺が嬲り殺しにするところでした。生まれてきたことを後悔するくらいに」

珍しく、ルレイアは苛立っているようだった。

死んだ私の兄に対して、ルレイアは怒っていたのだ。

「俺も大概、屑みたいな人間ですけどね。でもあなたのお兄さんほどじゃないですよ。俺は不特定多数の女に見境なく手を出しはしますけどね、でも一度抱いた暁には、ちゃんと俺に溺れさせて、女としての幸せを感じさせてあげてますからね。苦痛しか与えない行為なんて、猿のそれと一緒ですよ」

成程、ルレイアの言う通り。

さすが、本職の人である。

「…大変でしたね、シュノさん。あなた偉いですよ。ここまでよく頑張って。…辛かったでしょう?」

「…うん、辛かった」

思い出したら、胸が苦しくなるような辛い記憶だ。

でも。

「…でも、ルレイアが塗り替えてくれたから、もう辛くないの」

「そうですか。それは良かった」

「ありがとう…ルレイア」

「どういたしまして」

大好き、と呟くと、ルレイアは優しく微笑んで、私の髪を撫でてくれた。

あぁ、こんな幸せを感じることが出来るなんて。

私、女の子に生まれてきて良かった。

生まれて初めて、そう思った。

ルレイアが私のことを、愛してくれなくても良い。

恋人になりたいとか、結婚したいなんて贅沢なことは言わない。

そんなことをすれば、彼は駄目になってしまう。

彼を私という檻の中に閉じ込めてはいけない。

ルレイアの一番になんて、なれなくても良い。

ただほんの少しでも…ルレイアにとって「特別な女の子」になれたら。

それだけで…私は充分なのだ。

ルレイアは、私をあの忌まわしい記憶から救ってくれた人だから。

人を好きになる幸せを、教えてくれた人だから。





















「…私の王子様、ちゃんと迎えに来てくれた」

ルレイアは確かに、極悪人と言えるだろう。

でも私にとっては、彼は紛れもなく…私の王子様なのだ。



< 340 / 561 >

この作品をシェア

pagetop