The previous night of the world revolution2〜A.D.〜

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 Ⅰ (31/39)

「それにしても、ルレイア。『シュレディンガーの猫』のスパイには気を付けなよ」

アリューシャが一通りふざけ終わるのを見越して、アイズレンシアがルレイアに、そう忠告した。

「何かあって君が『青薔薇連合会』からの刺客だってばれたら、向こうも何をしてくるか分からない。君の実力を疑ってる訳じゃないけど、くれぐれも気を付けて」

「はーい。了解です」

アイズレンシアが折角、大事なことを言ってるというのに。

ルレイアのこの、へらへらした返事。

こいつ、ちゃんと分かってるんだろうな?

自分の仕事はきちんと弁えてる奴だが、こいつは基本的に、人を舐めてかかるからな。

帝国騎士団を相手にしていた頃を思い出してみろ。完全に舐めプしてたぞ。

ここはきちんとお灸を据えておかなければ。

「本当に分かってるんだろうな?ルレイア。こっちは『シュレディンガーの猫』のスパイが誰か、まだ掴めてないんだぞ。何らかの手段で向こうが先にお前をスパイだと掴んだら、いきなり後ろから刺されることも有り得るんだぞ」

他国のマフィアのこと、特に閉鎖的な箱庭帝国のマフィアのことは、アイズレンシアの手腕を持ってしても全てを暴ききれる訳ではない。

相手のことをよく知らないのに、戦いを挑んでるようなものだ。

『シュレディンガーの猫』にアイズレンシアほど優れたハッカーがいるとは思えないが、何らかの手段で、『連合会』の幹部がランドエルスに潜入していることを掴むかもしれない。

そうなったら、ルレイアがどうされるか。

そう簡単にやられるルレイアではないと分かっているが…。

もしものことを思うと、背筋が冷たくなる。

今回の相手は、帝国騎士団ではない。同じ非合法組織、マフィアなのだ。

薄汚いことも、残酷なことも、平気でしてくると思っていた方が良い。いや、きっとそうするだろう。

いかにルレイアと言えども…。

それに、俺が心配しているのはそれだけではない。

「分かってますよ。心配性のルルシー」

ルレイアは、いつもの妖艶な笑顔で応えてみせた。

「俺は、あなたを置いて先に死んだりしませんから。俺が死ぬときは、あなたが死んだ後です」

「…」

…何だと?こいつ。言わせておけば。

「…生憎だな。俺もお前よりは先には死なない。俺が死ぬのはお前が死んだ後だ」

「え。何それずるい」

ずるくて結構だ。

「じゃあ死ぬときは一緒ということで。それなら文句はないでしょう?」

「あぁ、それなら文句はない」

お互い、恨みっこなしだな。

いや、ちょっと待て。そういう話をしたいんじゃない。

「それより、お前。ちゃんと気を付けろ。女を騙すことは二の次にして、身の安全を一番に考えるんだぞ」

「えぇ~?俺が女を騙さなかったら、何すれば良いんですか?」

「だから身を守れ。それが一番だ。ランドエルスをハーレム化したところで、お前に危険が及ぶなら意味がない」

「ちょっとルルシー。ハーレム化は三の次にしようよ。『シュレディンガーの猫』のスパイを探るのを忘れてるよ」

あぁ、そうだった。アイズに言われて思い出した。

そもそもそれが目的だったな。

「…つーか、三の次だとしても、ランドエルスのハーレム化が目的に入ってるのはおかしくね?」

「おかしくないのよ。だってルレイアなんだもの」

後ろでひそひそ話すアリューシャとシュノの声は、とりあえず、聞こえないことにしておいた。






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