The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
「…お前の言う通りだ」

ルシェは俯いたまま、そう言った。

「言い返す言葉もない…。その通りだ。私は気づいてやれなかった。あの子がそれほど傷ついていたことを…」

「…」

「気づいていたら…助けてやれたものを…」

ルシェのその口調から、彼女がそのことを酷く悔いているのは伝わってきた。

あのとき。ルレイアに相談を受けたとき。

事態の深刻さに気づいて、すぐに助けてやっていれば。

今のような、破綻した関係にならずには済んだだろうに。

ルレイアは自分の人生に絶望することなく…明るい世界にいられただろうに。

それが彼にとって、幸せなことであるかどうかは…分からないが。

「学校のことだけじゃない。帝国騎士団に入ってからも…。ルレイアの冤罪に、あんたが気づいていれば…」

「あぁ…。そのことも、酷く後悔している…」

「今だから聞くがな…。あんたは自分の弟を信じなかったのか?女王を暗殺しようとしたと聞いて、すぐに信じたのか」

俺はその話を聞かされたとき、絶対に有り得ないと思った。

誤情報か、あるいは冤罪だと信じていた。

ルレイアがそんなことをするなんて、目の前で現場を見せられても…信じなかったと思う。

でも、ルシェはどうだったのか。

「すぐに信じた訳じゃない。最初は嘘だと思った…」

「…でも、結局は信じたんだろ?」

「女王陛下自らの証言と、それからオルタンス殿に、証拠を見せられて…」

「…自分の弟より、そんなものを信じたって言うのか」

嘘つきな女王の言葉と、オルタンスが適当にでっち上げた証拠の方を。

いくら、ルレイア本人にコンタクトを取れない状況だったとはいえ。

それでも結局、ルシェはルレイアより、ルレイアを陥れた人間達を信じた。

「私はルシファーへの憎しみで一杯だった。裏切られたと思っていた…。本当に裏切っていたのは、私達だったのに…」

「…」

「ルシファーに…申し訳ない。私だけでも、あの子を信じてやっていれば…」

「…全くだな」

もしルシェが、最後までルレイアを信じていたら。

…こんなことには、ならなかっただろうな。

「…もう、手遅れだ」

ルレイアの心は、ルシェから離れてしまっている。

ルシェから離れて、二度と戻れないところにまで来ている。

今更ルシェが気づいて、ルレイアに手を伸ばそうとも。

…遅いのだ。

ルレイアが一番助けを求めているときに、この女は、ルレイアの手を振り払った。

それだけの話じゃないか。
< 354 / 561 >

この作品をシェア

pagetop