The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
計画の実行日が近づくにつれ、カセイは緊張した面持ちが目立つようになった。

気持ちが分からなくもない。

俺も、珍しく緊張していたから。

全く、こんな面倒なこと、当分はしたくない。

ハニートラップで女を誑し込む方が、よっぽどが楽だ。

最近、つくづくそう思う。





「…緊張してます?カセイさん」

作戦実行が翌々日に迫ったその日、いつも通りエルスキー達の誘いを断って、カセイと放課後に打ち合わせをしていた。

日を追うごとに、カセイの眉間の皺が増えている気がするのだが。

老けるぞ。まだ若いのに。

「…こんなときに平然としてるのはお前くらいだ」

「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。上手く行きますって」

「…そうだと良いがな」

いかんなぁ。すっかりナーバスになってしまって。

まぁカセイの言う通り…こんなときに平然としていられるのは…少なくとも平然としている風を装えるのは…俺の強みだろうな。

「現状、負ける要素はありませんよ。我々のどちらかが裏切りでもしない限りはね」

「…」

「この作戦が終わるまでは、あなた方の信頼出来る味方であるつもりですから。そう心配しないでください」

「…あぁ」

励ましたつもりなのだが、カセイはまだ冴えない顔をしていた。

何がそんなに憂鬱なんだか…。士気が下がるんだが?

「まだ何か気になることが?」

「…いや…」

「言ってくださいよ。当日は俺達、実質後方待機組ですけど…。一応仲間じゃないですか」

「…」

カセイは憂いを帯びた表情で、深く溜め息を漏らした。

何だ、その溜め息。

「…帝国騎士団を壊滅させたとして…我々が、ルティス帝国で上手くやっていけるのだろうかと…不安になってな」

「ほう…」

何かと思えば、カセイは既に作戦が成功した後のことを心配している。

まぁ『シュレディンガーの猫』にとっては、そこも気になるよな。

何せ、元々は余所者なんだから。

「それを上手く行かせる為に、我々が手を組んだんじゃありませんか」

「そうだが…しかし」

「心配ありませんよ。契約は契約です。こちらもそれなりに旨味のあるお仕事ですから、交わした契約事項についてはちゃんと最後まで守りますよ」

マフィアとはいえ、一応社会人だからな。

書面で署名して交わした契約は、最後まで守る。

信用に関わる問題だからな。

「信じてください、カセイさん。俺もあなた方を信じてますから」

「…あぁ、分かった」

ここまで言って、ようやくカセイは少し笑顔を見せた。

「頑張りましょう、カセイさん。猫薔薇連合軍に勝利を」

同意してもらえると思って言ったのに。

カセイは、物凄く怪訝な顔をした。

「…何だ?その…猫薔薇というのは…」

「え、ちょっと。結構良いこと言ったつもりなんですけど?」

語呂も良いし、お互いの組織の名前入ってるし。

即席で思い付いたにしてはナイスなネーミングだと。

「何かこう…名前つけた方が格好良いかと思って」

『青薔薇連合会』と『シュレディンガーの猫』の連合軍、なんて長ったらしい名前じゃ、言いにくいだろう?

「ほら、名称つけると愛着沸きますし」

「…猫薔薇連合軍…か」

ちょっと。馬鹿にしたように復唱するのやめて。

字面だけ見ると可愛くないか?

猫ちゃんがこう…薔薇を咥えて何匹も群れになってそうな感じで。

実際は強面のマフィアが銃を片手に軍勢を率いてるんだけど。

「…良いんじゃないか?意外と」

カセイはふっと笑って、そう言った。

「…あなた、ちょっと馬鹿にしてるでしょ」

「してない」

「本当ですかね…」

「良いと思うぞ。本当に」

半笑いで言われても。

しかしまぁ…滅多に笑うことのないカセイを笑わせられたのだから、良しとするか。

笑うと意外に可愛いんだよな、この子。

「…やってやりましょう、カセイさん」

「あぁ、ルレイア」

お互いの絆を再確認し、士気を高め、いよいよ決戦を目前に控えたところで。
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