The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
翌日。

『fallen traitors』決行の前日。

この日は、俺がルナニア・ファーシュバルとして過ごす最後の日である。

「あ、おはよルナニア」

「おはよー」

「おはようございます」

学校に行くと、いつものようにエルスキーとアシベルが迎えてくれた。

ルナニアという名前に愛着はあるが、結局最後まで、こいつらには嫌悪感しかなかったな。

更に。

「おはよう、ルナニア。今日こそ放課後に稽古するわよ」

今まで出会ってきた女の中でもトップクラスにムカつくミューリア。

何だって上から目線なんだろう。

「そろそろ真面目にやらないときついよな。試験まであと何日もないぞ」

「ですよねぇ…。今日はちゃんと残ります。ご指導宜しくお願いします、ミューリアさん」

「ったく…。仕方ないわね。しばらくやってないぶん、スパルタで行くわよ」

今日は行く、と伝えると、ミューリアは露骨に嬉しそうな顔をした。

分かりやすい女だ。

本当は放課後に残るつもりなんて欠片もない。どうせ今日で終わりなのだから、適当に返事をしておけば良いのだ。

「あぁ…やだなぁ試験…」

アシベルはだらしなく机に突っ伏した。

こいつにも何度苛立たせられたか分からないけど、今日でおしまいと思うと腹も立たないな。

すると。

「アシベル君。君は貴族の人間なんだよ。そんなだらしないことでどうするの。皆をリードするくらいでないと」

相変わらず貴族脳のティモニーが、すかさずアシベルを叱りつけた。

「そうよ、ティモニーの言う通り。アシベルはもう少し真面目になりなさい」

「だってぇ…」

「昨日だって言ったでしょ。あんたは剣の振りが遅いのよ。あんなんじゃすぐに太刀筋を読まれるわよ」

「うぅ…」

ティモニー、ミューリアの両名に叱られ、アシベルは肩をがっくりと落としてへこんでいた。

可哀想に。雑魚に雑魚呼ばわりされるなんて。

すると、エルスキーが励ましの言葉をかけた。

「頑張ろうぜ、アシベル。この試験が終わったら、例の映画の公開日が待ってるんだろ?」

「そう!そうなんだよエルスキー。ずっと楽しみにしててさぁ。試験が終わったら皆で観に行こう」

あぁ、そういや前、昼休みにちらっと言ってたな。

なんでも試験が終わる頃に、アシベルの好きな俳優が主演の映画が公開されるんだとか。

それを、皆で観に行こう、と。

「ルナニアも行くだろ?」

「えぇ、勿論」

どうせ果たされることのない約束なので、何でも安請け合いである。

「その映画、○○って奴でしょ?それ私も気になってたの。一緒に行って良い?」

珍しく、ミューリアまでもが便乗してきた。

普段、男衆の外出には付き合わないのだが。

俺が行くと言ったからだろうな。

「勿論!ティモニーも一緒に行かない?」

「え?何で僕が…。そんな暇があるなら鍛練を…」

「まぁまぁ!試験終わりくらい遊ぼうよ。じゃあ試験が終わったら五人で映画観よう!決定!」

アシベルはティモニーの肩をぱんぱんと叩いて、強引に話をまとめた。

ティモニーは仕方ないなぁ…みたいな顔で溜め息をつき、そんなティモニーを見て、エルスキーもミューリアも苦笑いしていた。

俺も一緒になって笑ってみせた。

こんな茶番も、これでおしまいだ。
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