The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
教室にいたクラスメイト全員が、驚いて彼女の方を向いた。

視線の先には、顔が真っ青になって、肩で荒い息をするカセイがいた。

「ど…どうしたの?ハバナさん…」

カセイの隣の席に座っていた女子生徒が、恐る恐る彼女に声をかけた。

しかし、カセイはそれを無視し、髪を振り乱してつかつかと俺の前に歩み寄った。

そして、俺が何かを言う前に、俺の胸ぐらを掴み上げた。

「どういうことだ!ルレイア・ティシェリー!」

あぁ、予想通り…随分とお怒りのようだな。

そうするだろうと思った。

まさかクラスメイトの前でこんな狂言を演じる羽目になるとは。

しかも、本名公開するのやめてくれないかな。

「はい。何のことですか?」

「惚けるな!何故…何故こんなことを!貴様、何を考えてる!」

いつもクールなハバナ・ユールシュルが、ここまで怒髪天突いて怒っているなんて。

クラスメイトは当然ぽかーん状態だし、決闘でも始まるのかと思われているに違いない。

実際、決闘みたいなもんだが。

「随分と連絡が来るのが遅かったみたいですね…。行かなくて良いんですか?今行ったら助かるかもしれませんよ?…お仲間の一人くらいは」

「…!」

『fallen traitors』の真の目的は、猫薔薇連合軍による帝国騎士団の殲滅ではない。

帝国騎士団が大規模演習を行うなんてのは真っ赤な嘘であり、その偽の演習が行われる前日に、本当の計画が行われる。

つまり…『青薔薇連合会』と帝国騎士団による連合軍が、『シュレディンガーの猫』のアジトを襲撃した訳だ。

『猫』の構成員は、明日を決戦の日だと思って控えていた。

そこを、一日前倒しで背中から撃たれた。

動揺と混乱で、まともに戦は出来なかっただろう。

おまけに。

『連合会』側の指揮官はシュノさんだが、帝国騎士団側の指揮官は、なんとオルタンスが御自ら出てきているそうだ。

忌々しいが、あの男が指揮をしているのなら、負けることはないだろう。

『シュレディンガーの猫』が気の毒でならない。

ルティス帝国の二大組織に手を組まれたのだ。

余所者の泥棒猫では、相手になるはずがない。

「言ったじゃないか…。信用して良いと。契約は守ると!あの言葉は嘘だったのか!」

「あはは…。あんな言葉、律儀に信じてたんですか?それはありがとうございます。でも、あなた…人のことは、言えないですよね?」

俺がそう言うと、明らかにカセイの目が泳いだ。

「…な、何を」

「惚けても無駄ですよ。ちゃんと聞いてますから…。裏切ろうとしたのは、あなた方も同じでしょう?」

ルルシーが、ちゃんと教えてくれた。

遡ること二週間ほど前。

カセイ・リーシュエンタールは『シュレディンガーの猫』の密使として、帝国騎士団にコンタクトを取った。

そしてそこで、彼女達、『シュレディンガーの猫』は。

『青薔薇連合会』を裏切って、帝国騎士団につこうとしたのだ。
< 366 / 561 >

この作品をシェア

pagetop