The previous night of the world revolution2〜A.D.〜

sideオルタンス

ーーーーーー…二週間ほど前。

我ら帝国騎士団のもとに、『シュレディンガーの猫』から連絡が入った。

ハーリア・ユーリリーと名乗る若い女の密使が、非公式に我々を訪ねてきた。








「単刀直入に言う。我々『シュレディンガーの猫』は、帝国騎士団と手を組みたい」

彼女はまるで決められた台詞を読むように、淡々とそう告げた。

…我々と手を組みたい、か。

最近、マフィアと手を組むことが増えたなぁ。

全然笑い事ではないが。

「…一応、理由を聞かせてもらおうか」

「無論、『青薔薇連合会』を倒す為に」

やはり、そうか。

それ以外の理由はあるまいな。

俺達を相手にするより…『青薔薇連合会』を相手にする方がましか。

気持ちが分からない訳ではない。

「成程…。我々を利用して『青薔薇連合会』を倒し、貴殿らが今の彼らの立場に成り代わろうと。そういう腹か」

「…そうだ」

ハーリア・ユーリリーは苦々しく頷いた。

余所者は大変だな。

『青薔薇連合会』に成り代わりたいのは分かるが、残念ながら『シュレディンガーの猫』には無理だと思うのだが。

少なくとも、こんな女を密使として寄越すようでは。

「だが、帝国騎士団側にとっても、悪い話ではないはずだ」

「…」

これはつまり、帝国騎士団が、どちらを相手にしたいかという話だ。

『青薔薇連合会』か。

『シュレディンガーの猫』か。

この闘争の後、俺達の敵として君臨するなら、どちらがよりましか。

その選択を迫られている。

…実際、どちらがましなのだろうな。

「『青薔薇連合会』は危険な組織だ。あなた達にとっても…我々にとっても。倒せる機会があるのなら、倒しておくべきだと思うが」

「…確かにそうかもしれないな」

だが。

「…だが、それは貴殿らにも言えることだ」

「…」

『シュレディンガーの猫』とて、マフィアには変わりない。

しかも、それだけじゃない。

「『シュレディンガーの猫』は『青薔薇連合会』よりやり口が凶悪だ。ルティス帝国に流れ着いた直後、散々国を荒らしたこと…忘れたとは言わせないぞ」

後始末と情報統制に、どれほどの労力を割いたことか。

それを思うと、『青薔薇連合会』も『シュレディンガーの猫』も、我々にとっては厄介な敵に変わりない。

「…そのことについては、我々も申し訳ないと思っている」

「申し訳ないで済む話だと思うか?」

「相応の賠償はさせてもらうと、総帥が仰っていた」

「…」

一応…最低限の礼儀は尽くすつもりでいるらしいな。

まぁ、そうでなければわざわざこんな提案はしないだろうが。

「それだけではない。我々と手を組むなら、今後の我らの活動も、帝国騎士団側の意向を汲もう」

「ほう…」

それはまた…随分と大盤振る舞いだな。

正直、そこまで低姿勢で来るとは思わなかった。
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