The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
そもそも俺が恐れているものは、何なのか。
俺にとって脅威なのは、『青薔薇連合会』ではない。
かといって、『シュレディンガーの猫』でもない。
ルレイアだ。
恐れるべきはあの男であり、その他は…特に脅威ではないのだ。
なら、どうするべきなのだろう。
帝国騎士団にとっては目の上の瘤である『青薔薇連合会』を排除する、絶好の機会。
けれどそれをやったら、どうなるか。
思い出してみる。かつて、ルシファー・ルド・ウィスタリアを裏切り、彼を切り捨てたとき。
その後に待っていたものは何だったか。
…現在の帝国騎士団がこんな有り様になったのは、全てそれが原因だった。
俺が人選を間違えた。あの男に、罪を負わせるべきではなかった。
一番敵に回してはいけない人間を、敵に回してしまったのだ。
『シュレディンガーの猫』など、何も怖くはない。
怖いのは、ルレイアだ。
あの男を裏切ったとき、どんな報復をされるかと思うと。
それ以上に恐ろしいことはない。
まして、あのルルシーというルレイアの恋人に、傷の一つでもつけてみろ。
ルレイアは、安全装置のない核爆弾と同じだ。
今や彼に、祖国への愛国心などない。
自分の復讐の為に、平気で国を揺るがすようなことをするだろう。
例え話ではない。あの男はやる。復讐心に駆られ、理性を失ったルレイアほど恐ろしいものはない。
だから。
「…悪いが、その話には乗れない」
「っ!何故?」
「『青薔薇連合会』の報復が怖いからだ」
「…」
ハーリアは厳しい顔をして、俺を睨んだ。
断られるとは思っていなかったようだ。
「…マフィアが怖いなど。帝国騎士団長が聞いて呆れるな」
「何とでも言ってくれ。俺も人間だからな。怖いものは怖い…。彼らが我々にとって邪魔な存在であるのは確かだが、しかし敵に回すよりはましだ」
「…」
「…お前、人間だって自覚あったんだな」
アドルファスがぽつりと呟いた。
心外である。俺はいつだって人間だ。
「しかし…!『青薔薇連合会』を壊滅させるまたとないチャンスを棒に振るなど…!」
ルーシッドは抗議の声をあげた。彼はもとより、『青薔薇連合会』を含めマフィアを排除しようとしていた。
『連合会』との一件があって、最近では落ち着いているが…。腹の底では、やはり『青薔薇連合会』を憎んでいるようだ。
その気持ちは分からなくもない。
しかし。
「『青薔薇連合会』を裏切れば、彼らは容赦しないだろう。しばらくは平穏だろうが、力を取り戻したら必ず報復に来る。今度は…以前の比ではないだろう」
「それは…」
「完全に彼らの脅威を排除することは出来ない。なら、敵に回さないことを考えるべきだ。幸い、彼らは理性のある存在。話も通じる。裏切って報復に怯えるよりは、現状を保った方が良い」
「…正義の帝国騎士団が、マフィアに怯えるなど」
ルレイアに言わせれば、我々に正義などないらしい。
その言葉は、あながち間違ってはいない。
彼の言う通りだ。我々に正義はない。正義の面を被って、偽善を行うのが我々の仕事だ。
だから。
「この話は断る」
「…」
反対意見を口にする者は、もういなかった。
ルーシッドやユリギウスも、内心分かっているのだ。
『青薔薇連合会』を裏切るというのが、どういうことなのか。
「…分かった」
ハーリア・ユーリリーは諦めたように返事をして、立ち上がった。
チャンスを棒に振ってしまった、という自覚はある。
けれど、後悔はしていなかった。
俺にとって脅威なのは、『青薔薇連合会』ではない。
かといって、『シュレディンガーの猫』でもない。
ルレイアだ。
恐れるべきはあの男であり、その他は…特に脅威ではないのだ。
なら、どうするべきなのだろう。
帝国騎士団にとっては目の上の瘤である『青薔薇連合会』を排除する、絶好の機会。
けれどそれをやったら、どうなるか。
思い出してみる。かつて、ルシファー・ルド・ウィスタリアを裏切り、彼を切り捨てたとき。
その後に待っていたものは何だったか。
…現在の帝国騎士団がこんな有り様になったのは、全てそれが原因だった。
俺が人選を間違えた。あの男に、罪を負わせるべきではなかった。
一番敵に回してはいけない人間を、敵に回してしまったのだ。
『シュレディンガーの猫』など、何も怖くはない。
怖いのは、ルレイアだ。
あの男を裏切ったとき、どんな報復をされるかと思うと。
それ以上に恐ろしいことはない。
まして、あのルルシーというルレイアの恋人に、傷の一つでもつけてみろ。
ルレイアは、安全装置のない核爆弾と同じだ。
今や彼に、祖国への愛国心などない。
自分の復讐の為に、平気で国を揺るがすようなことをするだろう。
例え話ではない。あの男はやる。復讐心に駆られ、理性を失ったルレイアほど恐ろしいものはない。
だから。
「…悪いが、その話には乗れない」
「っ!何故?」
「『青薔薇連合会』の報復が怖いからだ」
「…」
ハーリアは厳しい顔をして、俺を睨んだ。
断られるとは思っていなかったようだ。
「…マフィアが怖いなど。帝国騎士団長が聞いて呆れるな」
「何とでも言ってくれ。俺も人間だからな。怖いものは怖い…。彼らが我々にとって邪魔な存在であるのは確かだが、しかし敵に回すよりはましだ」
「…」
「…お前、人間だって自覚あったんだな」
アドルファスがぽつりと呟いた。
心外である。俺はいつだって人間だ。
「しかし…!『青薔薇連合会』を壊滅させるまたとないチャンスを棒に振るなど…!」
ルーシッドは抗議の声をあげた。彼はもとより、『青薔薇連合会』を含めマフィアを排除しようとしていた。
『連合会』との一件があって、最近では落ち着いているが…。腹の底では、やはり『青薔薇連合会』を憎んでいるようだ。
その気持ちは分からなくもない。
しかし。
「『青薔薇連合会』を裏切れば、彼らは容赦しないだろう。しばらくは平穏だろうが、力を取り戻したら必ず報復に来る。今度は…以前の比ではないだろう」
「それは…」
「完全に彼らの脅威を排除することは出来ない。なら、敵に回さないことを考えるべきだ。幸い、彼らは理性のある存在。話も通じる。裏切って報復に怯えるよりは、現状を保った方が良い」
「…正義の帝国騎士団が、マフィアに怯えるなど」
ルレイアに言わせれば、我々に正義などないらしい。
その言葉は、あながち間違ってはいない。
彼の言う通りだ。我々に正義はない。正義の面を被って、偽善を行うのが我々の仕事だ。
だから。
「この話は断る」
「…」
反対意見を口にする者は、もういなかった。
ルーシッドやユリギウスも、内心分かっているのだ。
『青薔薇連合会』を裏切るというのが、どういうことなのか。
「…分かった」
ハーリア・ユーリリーは諦めたように返事をして、立ち上がった。
チャンスを棒に振ってしまった、という自覚はある。
けれど、後悔はしていなかった。