The previous night of the world revolution2〜A.D.〜

sideカセイ

ーーーーーー…私は一体、何から逃げているのだろう。

ランドエルス騎士官学校を抜け出して、私は一人、異国の街を行く宛もなく逃げ惑っていた。

何処に行けば良いんだろう。総帥のいるアジトは帝国騎士団と『青薔薇連合会』によって蹂躙されている。その現場に、私一人が向かったところで…屍が一つ増えるだけだ。

それでも私はアジトに向かうべきなんだろうか。犬死にする為に?

それに、アジトに戻ってよしんば総帥を助け出したとしても…どっちみち私は殺される。

私がルレイアに騙されたせいで。私の決断が、仲間を死地に追いやったのだ。

アジトに戻れば私は死ぬ。でも…戻らなくても、私が生き残れる道が何処にある?

ここはルティス帝国。私達にとっては異国であり、親類もいなければ国籍もない。

今までは、マフィアに所属することで生活していけたけど…。この件で、『シュレディンガーの猫』はもう壊滅したも同然だ。

帝国騎士団と『連合会』が『猫』の構成員を一人でも逃がすとは思えないし、投降したとしても、捕らわれて祖国に送り返されるだけだ。

マフィアという着ぐるみを脱げば、私達はただの不法入国者なのだから。

そして、祖国に戻ったらどうなる?

亡命などして祖国に迷惑をかけた大罪人として、間違いなく一人残らず公開処刑される。

私達の祖国は、そういう国だ。

誰にも捕まる訳にはいかない。

でも、身寄りもなければ国籍すらない不法入国者の私が、どうやってこの異国で生きていくんだ?

そもそも私は逃げられるのか?この国の二大組織である帝国騎士団と、『青薔薇連合会』を敵に回して、私一人が、鼠のようにこそこそと逃げられるものだろうか。

…無理だ。

どっちにしても私は死ぬ。誰かに捕まって殺される。

綺麗な死に方は出来ない。

「う…うぅ…」

知らないうちに、ぼろぼろと涙が溢れていた。

私は『シュレディンガーの猫』の仲間と、それから総帥を…私を拾ってくれた総帥を、この手にかけるようなことをしてしまった。

結局、私もあの人と同じだ。誰も救えず、何者にもなれないまま、あの人と同じように惨めに殺されようとしている。

私の目蓋の奥に、あの人の無惨な死体が蘇った。





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