The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
私の両親は、私がまだ幼い頃に亡くなった。

父親は、仕事中の事故で大きな怪我をして、それが治らなくて死んだ。

珍しいことではなかった。

憲兵局が用意した仕事は、どれも安全基準が守られていなくて、事故が多発していたから。

医療機関も未発達で、しかも治療費は恐ろしく高額だったから、病院なんて行けなかった。

母親も同じ理由で死んだ。私の弟を出産するときに、身体を悪くしてそのまま亡くなった。

生まれた弟も、誕生して一週間足らずで死んだ。

幼くして一人ぼっちになった私は、母の従姉妹の家に引き取られた。

ルーザは、そこにいた。

私と彼は同い年で、最初に彼の家で会ったときから、お互い通じ合うものを感じていた。

私達はお互いに兄弟を持たず、箱庭帝国の子供は完全に男女別の学校に通わされるから、同い年の異性が物珍しかったのかもしれない。

学校なんてつまらなかった。箱庭帝国の教育は洗脳的で、無理矢理愛国心を植え付けられ、国の為に誠心誠意尽くすように、と教えられた。

男性は国に労働力を提供し、毎日汗水垂らして国に奉仕する。だから働けない男は穀潰しで、何の価値もない存在。

女性は国の宝である子供を生み増やす為に、結婚して多くの子供を生む。だから子供を生めない女は出来損ない。

ルティス帝国でこんなことを言えば、たちまち顰蹙を買うだろう。

ましてや学校でこんな教育をする教師がいたら、大問題になるだろう。

けれどこの価値観は、箱庭帝国ではごく普通のものだった。

貧しい国だから、国民全員が働かなければ生きていけなかったのだ。

さて、話を戻そう。

そんな学校に通っていた子供達は、幼い頃から洗脳され、我々は国の為に尽くすのが美徳として、憲兵局と、大将軍を褒め称えていた。

考えてみればおかしな話だ。私達が貧しい生活を強いられているのは、その憲兵局が私達から搾取しているからに他ならないのに。

私も、同じ学校のクラスメイトも、そして多くの民も。

誰もが盲目的に憲兵局を信じていた。大将軍を信じていた。彼らこそが私達の生活を守り、身の安全を守ってくれるものだと。

幼い頃から、頭にそう叩き込まれていたのだ。

多くの者は、箱庭帝国のこの制度に疑問を抱くことはない。

憲兵局に搾取されて餓死しようと、彼らが正義だと疑わなかっただろう。

…けれど。

ごく一部。箱庭帝国のごく一部の人間は、そうは思っていなかった。

彼らは革新者であり、そして異端者であった。

憲兵局の敵。人民の敵。彼らは所謂思想犯で、箱庭帝国を憲兵局から解放しようとしていた。

大将軍と憲兵局だけが権力を持っていることに疑問を抱き、主権を国民に返し、自治を国民に任せるようにと要求し、自由を返せとスローガンを掲げ、憲兵局に隠れるようにひっそりと活動していた。

当然憲兵局は、そんな革命運動を断じて許さなかった。

革命だけではない。『シュレディンガーの猫』を含む地下組織の類も、とにかく自分達以外の組織、人間が少しでも権力を持つことが許せなかったようだ。

テレビやラジオでは、革命運動家やその組織、そしてマフィアなどに対して、憲兵局が直々に教育したニュースキャスター達が、めちゃくちゃに貶していた。

彼らを擁護するニュースは一切なかった。

とにかく憲兵局以外は悪。人民を騙すぺてん師。愚か者には鉄槌が下ると言って、公開処刑が行われた。

この公開処刑という制度も、箱庭帝国独特の、時代錯誤な慣習だ。
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