The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
食べ物だけではなかった。

「見てよ、カセイ。穴が開いてる」

「あ…本当だ。この間繕ったばかりなのに」

ルーザの国民服には、小指の先くらいの穴が開いていた。

箱庭帝国の国民は、服を自由に選ぶ権利がない。

国民は全員、統一された国民服を着なければならない。

男の人は青、女の人は緑の服だった。

子供も服を決められていて、12歳以下の子供は、グレーの国民服を着せられた。

その服も、安くて薄い生地で作られていたから…よくほつれたり破れたりして、伸縮性もなかった。

配給も少なく、次に支給されるときまで、破れたものをそのまま着ていなくてはいけない。

「何度繕っても駄目だよ。また破れるだけだ」

ルーザは吐き捨てるようにそう言って、地味なグレーの国民服を、粗末なベッドに放り投げた。

憲兵局から支給された大事な国民服を、粗末に扱うとは何事だ。

ここに教師がいたら、そう言って殴られたことだろう。

「こんな地味な服…。嫌になるよ。ねぇ、カセイ」

「…そうだね」

帝国の人民といえども、私だって女の子だから、綺麗な服を着たかった。お洒落もしたかった。

でも、そうはいかなかった。

制服も靴も、髪型さえも統一されているのだから。

自分らしさ、個性など、あってはならない。

「はぁ…本当に、嫌気が差す」

「…」

ルーザは随分とはっきり言った。

彼はそういう人だった。

そんなこと、口にしてはいけないのに。

思ったことを、思ったように言っていた。勿論、あの頃は…家の中でだけだったけど。
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