The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
何であんな風に笑うのか。だって、ルーザのお父さんは冤罪のはずなのに。

呆然としている私とルーザの前で、憲兵局員は強引にお父さんを歩かせ、何処かに連れていった。

後で分かったことだが、ルーザのお父さんは、マフィアに雇われて使い走りのようなことをしていたらしい。

それが憲兵局にばれて、捕まったのだ。

何故彼がそんなことをしていたのか。それは考えるまでもなかった。

ルーザのお父さんは、お母さんの治療費をなんとか捻出する為に、そんな仕事に手を出していたのだ。

でもお母さんが自殺して、もうそんなことをする必要はなくなった。

お母さんが亡くなっても、お父さんがマフィアに雇われていた事実は変わらない。

だから、ルーザのお父さんは憲兵局員が家に立ち入ってきたときも驚かなかった。

いつか来ると思っていたのだろう。

それを分かっていて、お母さんを助けることを選んだのだ。

それなのに、お母さんを助けることは出来ず、そして自分も捕まった。

マフィアと関係を持つということは、憲兵局に対する反逆に値する。

当然、ルーザのお父さんに下されたのは、死刑判決だった。

お父さんは観衆が見ている前で、憲兵局員に首を切られて死んだ。

テレビや漫画で断首刑と言えば、首を一気にすっぱりと切られていて、楽な死に方のように見えるが。

現実では、そんなに楽な方法ではない。

むしろ、残酷な処刑法だった。

一度では切れず、何度も何度も、ノコギリのように刃を引いて、じわじわと首を切断されるのだ。

絶命するまで、凄まじい絶叫が広場にこだましていた。

私とルーザは当然その場に連れていかれ、処刑の様子を見せられた。

私はあまりの恐怖に歯がガチガチと鳴り、顔を真っ青にして断頭台を見つめていた。

目を逸らす訳にはいかなかった。泣いたり叫んだり目を逸らしたりすれば、非国民だと言われてしまうから。

しかしルーザは、私のように震えてはいなかった。

彼は一瞬たりとも見逃すまいと、唇を強く噛み締め、断頭台を睨み付けていた。

あのときに、ルーザの意志は固まったのだ。

そして観衆は、楽しげに歓声をあげていた。

ルーザのお父さんの死体を、私達遺族が引き取ることは許されなかった。

死体はその場に放置され、一週間足らずで野鳥や野犬に食べられ、無惨な有り様になっていた。

これが、箱庭帝国で死刑になった者の末路だった。






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