The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
「誰かが変えなきゃならない。そのきっかけを作らなきゃならないんだ」

「…だから、マフィアに入るの?」

「そうだ。マフィアのやり方が良いなんて思っていない…。でも、まずは力をつけなきゃ始まらない。少なくとも憲兵局に抵抗出来るだけの権力を手に入れなきゃ。そうしないと…いつか、君も殺されてしまうかもしれない」

ルーザは涙を滲ませながら、私の手を掴んだ。

「この国では、いつ、どんな理由で殺されるか分からないんだ。君だって、明日には憲兵局に何か言いがかりをつけられて殺されるかもしれない。聞いたか?酔っ払った憲兵局員にレイプされそうになった女の子が、抵抗して憲兵局員を殴ったってだけで、その子は反逆罪で銃殺されたんだ。こんな話が有り得て良いのか?その女の子がもしカセイだったらと思うと…。俺は黙ってることなんて出来ない」

何もかもがルーザの言う通りだった。

その女の子の話なら、私も聞いた。

どう考えても悪いのは憲兵局員なのに、レイプしようとした憲兵局員には何の咎めもない。あくまでも悪いのは、抵抗した女の子の方なのだ。

明日は我が身だった。私の身に同じことが起きても、おかしくはない。

「父さんも母さんも守れなかった。でも、カセイ。君だけは守る。君と恋人であることを隠さずに、堂々と二人で外を歩けるような…そんな国を作る。間違ったことを間違ってると言える、そんな国にするんだ」

ルーザの目は、本気だった。

彼は決意したのだ。必ず、そうしてみせると。

ならば私がすべきことは、彼を止めることではなかった。

「…気を付けて、ルーザ。くれぐれも…憲兵局に見つからないように」

「あぁ、勿論だ」

このとき、私が彼を止めていれば。

彼が死ぬことはなかったのだろうか。

でも何度思い返しても…あのとき私が彼を止めるなんてことは、出来なかったに違いない。

ルーザはそのとき既に…死を覚悟していたのだろうから。





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