The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
…私は何から逃げている。

そうだ、ルレイア。ルレイア・ティシェリー。あの男だ。

私が恐れているのは、総帥でも、帝国騎士団でも、『青薔薇連合会』でもない。

あの男が怖いのだ。ルレイアが。

私がスパイであることを一瞬で見抜き、腹の中にどす黒いものを抱えていながら。

それを隠して、無害な男子高校生を装い、あらゆる人間を騙していた、悪魔のような人間。

あれは、本物の化け物だ。

狂った化け物。

一体この世の誰が、あれを相手にして勝つことが出来ると言うんだ?

逃げなくてはならない。私は生きなければならない。

生きて、ルーザの無念を…、





「…回想は終わりましたか?」





裏路地を抜けたところで、その男が私を待っていた。

ランドエルスの制服ではなかった。特殊メイクを落とし、全身真っ黒な服を身にまとい、胸には青い薔薇のブローチをつけ、優雅に腕を組んで、私を待ち伏せしていた。

その姿は、まるで死神だった。

「待ちくたびれましたよ。俺、待たされるの嫌いなんですよね」

「ど…して…ここに」

「この地区で逃走経路に使えそうな道は頭に入ってます。スパイなんだから当然でしょう?」

敵わない。

到底、私ではこの男に敵わない。

「さて、それじゃ…死んで頂きましょうか」

ルレイアはゆらり、と私に近づいた。

…私では、この男に勝てない。

でも。

何も為せずに死ぬなんて、そんなのは御免だった。

私ではこの男に勝てない。それでも。

せめて。

…この悪魔を、道連れにする。

「…死ね!」

私はポケットに忍ばせていた手榴弾のピンを抜き、ルレイアに抱きついた。

ルレイアの驚いたような顔を確認して、私はぎゅっと目を閉じた。

ルーザ…私、今、行くから。
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