The previous night of the world revolution2〜A.D.〜

sideX

ーーーーーーー…『シュレディンガーの猫』本拠地であるアジトは、喧騒に包まれていた。

「何としてもここだけは守り抜くのです!総帥だけは!」

傍らのシトウ・フルフレースは顔面蒼白で部下に怒鳴り散らしていた。

「し、しかし…もうすぐそこまで突破されて…。撤退を」

「撤退など出来る訳ないでしょう!何としても死守です!」

「でも死守しようにも…敵の数が」

「それをなんとかするのがあなた達の仕事でしょう!」

「そんな…」

シトウにヒステリックに喚き散らされ、部下は困惑していた。

それはそうだろう。シトウの言っていることはめちゃくちゃだ。

それだけ、追い詰められているということだが。

「あぁっ…。何でこんなことに。やはり、あの女を引き入れたことは間違いだったんです!あれが疫病神だったんです!私はそう言ったでしょう!」

「…」

シトウが誰のことを言っているのかは明白だ。

カセイ。カセイ・リーシュエンタールだ。

俺は彼女のことを考えた。

生きているのだろうか。カセイは。

ルレイアに託しはしたが…。あの男が俺の頼みを聞く道理はない。

情に流される人間でもないし、後に反逆の種を残すよりは…殺してしまっているかもしれない。

シトウは必死に俺を生き残らせることを考えているようだが…まず無理だろう。

この国で、帝国騎士団と『青薔薇連合会』を敵に回したのが間違いだった。

それは別に良いのだ。この国に逃げてきても、俺達が生き残る術などないことは分かっていた。

それでも俺が祖国を捨ててルティス帝国に来たのは…彼女の為だった。

この国なら、彼女一人だけなら生き残ることが出来るかもしれないと思った。

彼女が『猫』に加入するとき、俺に直談判しに来たときのことを、俺は思い出した。

美しい女だと思った。

それ故…俺は彼女のことを…。

と、そのとき。

「総帥!お逃げください。敵がすぐそこに…」

部下の一人が、部屋の中に飛び込んできた。

そしてそのまま、ばたん、と前のめりに倒れた。

背後から撃たれたのだ。

シトウが悲鳴をあげ、俺はゆっくりと部屋に入ってくる人間の姿を見た。

「…見つけたわ」

「…『青薔薇連合会』か」

今部下を殺したのは、この女か。

帝国騎士団の制服を着ていない。ということは、『青薔薇連合会』だ。

「あなたを殺せばこの戦いは終わり。投降しなさい。一応私達は帝国騎士団と組んでるから、無闇に殺しはしないわ。投降すれば、無事に身柄を帝国騎士団に渡すと約束する」

「…何とも有り難い申し出だな」

彼女の後には、幾人もの彼女の部下が控えていた。

どうやらこの女、この若さで…『青薔薇連合会』の幹部らしいな。

丁度、カセイと同じくらいに見える。

この場の指揮官を任せられるくらいなのだから、ルレイアからの信頼も厚いのだろう。

しかも、投降すれば命は助けてくれると仰せだ。

本来、敵を助けるなどマフィアのやることではない。

しかし今は、帝国騎士団と組んでいる。

一応帝国騎士団の顔を立てて、極力殺しは避けようということか。

だが。

「…投降はしない。帝国騎士団に身柄を拘束されたとして、どうせ祖国に引き渡されるだけだ」

そしてその後、公開処刑が待っている。

どのみち殺されるのだ。なら、楽に死んだ方がましだ。

「…あなたもそう言うのね。あなたの部下達も皆そう言って、大抵の者は自決したわ」

「そうだろうな」

彼らも、祖国の残虐ぶりを知っている。死ぬまで鞭打たれて殺されるより、自分に向けて引き金を引く方が遥かに楽だ。

「あなたも投降するつもりはないのね?」

「あぁ」

「…良いわ。なら、死んでもらう」

『青薔薇連合会』の幹部は、使い込まれた拳銃を構えた。

その目に躊躇はなかった。

だが、俺も立場というものがある。

俺を信じてついてきた者に報いる為にも。

黙って殺される訳にはいかない。

上手く行けば、この女幹部くらいは道連れに出来るかもしれない。

俺は、壁に立て掛けていた日本刀を手に取った。
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