The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
しかし。

「…だってルルシー、『シュレディンガーの猫』を倒したら結婚するって言ったじゃないですか」

「いや…そりゃ言ってたけど、お前しか言ってないからな」

俺は良いなんてひとっ…ことも言ってない。

あれは冗談だろ?そのくらいのつもりで頑張る、という願掛けみたいなもので。

「俺はお前と結婚するつもりはない」

何だって俺は男相手にこんなことを言わなきゃならないんだ?

と、思っていたら。

ルレイアの大きな瞳に、ぶわ、と涙が浮かんだ。

「酷い!ルルシー!結婚してくれるって言ったのに!婚約破棄ですね!?」

「は?」

婚約破棄?婚約した覚えないのに?

「あっ!ルル公がルレ公泣かした!あーあ!アシュトーリアさんに言いつけてやろ!」

アリューシャ、お前は小学生か?

アシュトーリアさんだって、そんなこと言いつけられても困るだろうに。

「な、泣かないでルレイア。可哀想に。ルレイアは何も悪くないのよ。大丈夫よ」

「えーん、シュノさぁん…」

ルレイアは明らかな泣き真似をしながら、シュノに抱きついて慰めてもらっていた。

何やってんの、お前…。

「ルルシー!約束を破るのは駄目だと思うわ」

ルレイアの泣き真似をマジ泣きだと勘違いしたシュノが、きっ、と俺を睨んで声を荒らげた。

いや、俺は約束したつもりは。

「ルルシー、これは駄目だよ。婚約破棄は慰謝料払わないといけないんだよ。ちょっと遠距離恋愛になったからって、婚約はなかったことにする、なんて…。そんな不誠実なことしちゃいけない」

アイズは、ぽん、と俺の肩に手を置いて諭すように言った。

ちょっと待て。何で俺が悪者?

明らかにおかしいのはルレイアのはずなのに、まるで俺が、「出張前に婚約してたのに、出張から帰ってきたら、婚約なんかしたっけ?とはぐらかそうとしている最低男」みたいになってる。

「あのな、ルレイア…。何て言うか…」

「うえーん。この年なのに未亡人にされました~」

「ルレイア、元気出して…!」

何?この茶番。

頭が痛くなってきた。

「あ~っ!もう!ルレイア!悪かったよ。冗談だと思ってたんだよ!結婚はしないけど、婚約破棄したのは俺が悪かった!何でも詫びするから許してくれ!」

こう言えば納得するんだろうと、俺は潔く頭を下げた。

何で俺が謝らなきゃならないんだろうなぁとは思うが、この四面楚歌の状況をなんとかしないことには。

「本当ですかっ?じゃあルルシー、俺と朝までカラオケ付き合ってください」

「あぁ…うん。そのくらいなら」

「ついでにホテルで情熱的な夜を…」

「そっちは断る」

あわよくば誘おうとするな。

「も~。ルルシーは我が儘なんですから…。じゃあ良いですよ。今夜ちゃんとご飯作ってくださいね」

「あ?うん…」

つい、そのくらいなら…と思ってしまったが。

人ん家に当たり前のように飯たかりに来るのも相当おかしいよな。

「大体ルレイア…。結婚するだの何だの、あれは冗談だろ…?」

ルレイアの…お決まりのネタみたいなもので。

オルタンスにまで本気にされたんだが?

「そりゃ、俺だってルルシーとそういう関係にはなりたくないですし…。冗談ですよ?…2割くらいは」

8割本気。

あぁ…聞かなきゃ良かった。

「しょうがないよルルシー。君が惚れられたのはそういう相手だ」

「だな…」

アイズに労われ、俺は溜め息をついた。

だが、殺伐とした日々を過ごした後では…こんな日常でさえ、いとおしく思えるのだ。
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