The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
「ただいま」

帰る家に、誰かが待ってくれているというのは良いことだ。

最近俺は、常々それを自覚している。

ましてや、好き合って結婚した妻が待つ家なんて、男なら一度は憧れるものだろう。

それを現実に手に入れたのだということを、思い出しては慎ましい幸せに浸る毎日である。

…が。

「お帰りなさい、ルヴィアさ…ん」

マフィアが所有するマンションの一室、その玄関の奥から姿を覗かせた妻のフューニャは、帰宅したばかりの夫の顔をじぃぃ…と見つめた。

な…何だ?

「フューニャ…?」

「…」

しばし俺を見つめていたフューニャは、無言で踵を返し、奥の部屋に引っ込んでいった。

…??

よく分からないけど…上がって良い…ん、だよな?

ここ、俺の家だし…。

いつもなら、彼女はてこてこと俺の傍に寄ってきて、「可愛い新妻にただいまのキスをしてください」とか、可愛いことを言うんだけど…。

新婚気分はそろそろ抜けたということなのだろうか。ちょっと悲しい。

いや、まぁいつまでも恋人のときのようにいちゃついてる夫婦ってのも、あんまりいないだろうけどさ…。

…と、思っていたら。

俺が靴を脱いで家に上がる前に、奥から、フューニャが再び姿を現した。

その手には、何かスプレーのようなものを持っていた。

…何だあれ?

無言で歩み寄ってきたフューニャは、手にしたそのスプレーを俺の顔面に向け。

しゅっ、しゅっ、と吹き掛け始めた。

「うわ、ちょ、何だ?」

「動かないでください」

何で?

一回や二回じゃない。フューニャは消臭スプレーを使いきる勢いで、俺の身体がべたべたになるまでしゅっ、しゅっ、と吹き掛け続けた。

「ちょ、待てフューニャ」

俺、物凄い爽やかな匂いになってる。

「静かにしてください。動かないで」

「えぇ…」

一体、俺は何をされているのだろうか。

とにかく逆らったら怒られそうなので、俺はされるがまま消臭されていた。

フューニャの気が済んだ頃には、俺の髪から雫がぽたぽたと落ちていた。

それなのに、何故かフューニャは満足そうな表情。

「…何がしたかったんだ?」

「私、煙草臭い人は嫌いなんです」

「…そうか…」

それで消臭されたと。そういうことか。

「さぁ、可愛い新妻にただいまのキスをしてください」

「うん…ただいま…」

上目遣いでキスをねだるフューニャが可愛かったので、もう気にしないことにした。

あと、その後速攻でシャワー浴びに行った。
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