The previous night of the world revolution2〜A.D.〜

sideルヴィア

ーーーーーー…きっかけは、数日前のとある仕事であった。



俺はその晩、仕事帰りに、得意先との接待で…所謂、夜の店に付き合わされた。

まぁ…スナックと呼ばれる類の店なのだが。

俺は既婚者だから、そういうところに行くのは気が進まなかったのだが…仕事の付き合い上、断るということも出来ず。

フューニャには「今日は残業」と告げて、スナックで軽く引っ掛けて帰ったのだが。

そこで、悲劇が起こった。












「…ただいま」

帰宅した頃には、とっくに日付が変わっていた。

当然フューニャも寝ていることだろうと思って、俺は音を立てないように気を付けながら家に入った。

とりあえず、シャワーを浴びて寝るか…と思い、廊下の電気をぱち、と点けると。

「うわっ！」

「…」

何故かちょっとセクシーなナイトウェアに身を包んだフューニャが、じっと俺を睨んでそこに立っていた。

物凄くびっくりした。

「ふ、フューニャ…。起きてたのか…」

「…」

ってか、そのやたらとセクシーなナイトウェアは何？初めて見るんだが？

いつもは特に飾り気のない、何処にでも売っているシンプルなパジャマを着ているのに。

「フューニャ…？」

「…」

フューニャは俺の問いには答えず、無言でつかつかと歩いてきた。

眉間には皺が寄り、酷く険しい目付きをしていた。

…この顔を見る限り、穏やかではなさそうだ。

俺はなんとかフューニャの地雷を踏むまいと、何故彼女が怒っているのか必死に考えた。

俺がさっきまでスナックで飲んでいたことは、彼女は知らないはずだ。

ということは別の理由…の、はず。

何だろう。俺は何をしてしまったんだ？

出掛けるときはちゃんと、行ってきますのキスもしたし…。昼休みにはちゃんと、愛してるよメールを送った。

他に何か…フューニャを怒らせる理由があるはずだ。

使ったマグカップを片付け忘れてたとか？服を脱ぎっぱなしにしてたとか？

帰りが遅くなったことか？でも、それだって事前にちゃんと伝えたから…怒りはしないはず。

ちなみに、連絡もせずに日付が変わるまで帰らなかったら、恐ろしい目に遭った。

だから二度と、そんなことはしないと誓ったのだが…。

…一体フューニャは、何にキレてるんだ？

…分からん。

くそ、酔ってるのか俺。フューニャを怒らせるなんて俺は馬鹿なのか！？

「フューニャ…あの」

つかつかと歩み寄ってきたフューニャは、しゅっ、と手を伸ばして、ポケットから俺の財布を引っ張り出した。

えっ。

「ちょ、フューニャ」

止める間もなく、彼女は俺の財布を開き、目当てのものを探り出した。

フューニャはそれを、じっ…と見つめた。

あ、あぁ…。

それは、どんなに暖かい地域に住んでいようと、妻に発見されるだけで夫婦関係を一瞬にして極寒の地に変えてしまう魔法のアイテム。

先程スナックのママがくれた、店の名前入りの名刺であった。

この瞬間、俺は断頭台に上がらされた死刑囚のように、自分の運命を諦めた。