The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
「フューニャ…ただいま」

「お帰りなさい。ルヴィアさん」

帰宅すると、フューニャはいつも通りてこてこと寄ってきて出迎えてくれた。

そして、いつもの儀式。

フューニャはわんこさながら、俺の周りをぐるりと一周、ふんふんと匂いを嗅いでいた。

なんかよく分からないけど…浮気チェック、らしい。

他の女や男の匂いがしないかどうか、確かめているようだ。

匂いで分かるものなのだろうか。

一通り匂いを確かめた後、シロだと分かったのだろう。フューニャは満足そうにぽふ、とくっついてきた。可愛い。

「可愛い妻にただいまのキスをしてください」

「はいはい」

フューニャにただいまのキスをして、これで帰宅時の一連の儀式が終わった。

いつもなら、可愛いフューニャのいる家に戻ってきたなぁと、ほっこりするところだったが。

今日は、気が重かった。

「…何を隠してるんです?」

俺が浮かない顔をしていることに目敏く気づいたフューニャは、疑わしげな眼差しでじっと俺を見た。

…さすが。鋭い。

「…あのな、フューニャ」

「何です?浮気ですか」

「それはない」

フューニャ以上に可愛い女が、この世の一体何処にいるんだ。

だから、浮気はない。

そうではなくて。

「あのな…。実は…来週のことなんだけど」

「はい」

「…出張で、二~三週間アシスファルトに行くことになった」

フューニャの目が、ぎらっ、と光った。

思わず縮み上がってしまった。

職業柄、何度も命を狙われたことがある。だがどんな暗殺者や暴君よりも、フューニャの方が遥かに怖い。

「…ごめん。フューニャ…」

「ほう。そうですか。可愛い妻の誕生日が翌週に迫っているというのに、あなたは誕生日の日に家を空けるどころか、国外にいると。そういうことですね」

「悪かったよ…」

そう。フューニャは、もうすぐ誕生日を迎えるのだ。

結婚して初めての、妻の誕生日。

忘れるなんてもっての他だが、当日に出張でお祝い出来ないというのも問題外である。

「帰ってきたら、埋め合わせするから。許してくれ、フューニャ」

「…可愛い妻の誕生日をすっぽかすんですから、さぞ素晴らしいサプライズが待ってるんでしょうね?」

うぐっ…。

「…努力するよ」

「良いでしょう。ちなみに…出張はお一人ですか?」

「いや、同僚の…女の子と」

言ってしまってから、自分がとんでもない失言をしたことに気づいた。
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