The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
フューニャの、目が。

先程よりも、更に恐ろしいことになった。

「…妻の誕生日をすっぽかした挙げ句、女性と仲良く海外旅行とは…。これは最早離婚案件ですね。あとは追って弁護士から連絡を入れさせます」

フューニャはくるりと踵を返した。俺はそんなフューニャの肩を必死に掴んだ。

「待ってくれフューニャ!仕事なんだ!」

「便利な言葉ですね。『仕事』って」

冷ややかな目をするフューニャ。恐ろしいが、離婚だけは回避しなければ。

「大丈夫だ。上司…ルレイアさんの部下だから。間違いなく彼のハーレムの会員だ。俺がどんなにアプローチしたって、ルレイアさんに心酔してるから俺には見向きもしないはずだ」

「…」

フューニャは疑わしげに俺を睨んだ。

ルレイアさんのハーレムの会員は、全員ルレイアさんを自らの主として崇めている。

ルレイアさんが一言「死ね」と言えば、喜んで舌を噛むような連中だ。

噂に寄るとルレイアさんは、自分の経営する風俗店の嬢を全員たらし込み、ルティス帝国選りすぐりの美女達を毎夜、摘まみ食いしてはポイ捨てしていると言う。

聞いた話では、どんなに高飛車で高慢な女でも、一晩ルレイアさんと夜を共にすると、目を恍惚とさせてルレイアさんの靴をぺろぺろ舐めるようになるとのこと。

しかも、俺はまだ見たことはないが、『事後』のルレイアさんは男でもメロメロにしてしまうほどの強烈なルレイア・フェロモンを発しているそうで。

その恐ろしさと来たら、同僚であるルルシーさんが、周囲への被害を防ぐ為に『事後』の一切の外出禁止を言い渡したほどである。

正に魔王だ。

そんなルレイアさんの部下なのだから。俺ごときがどんなに頑張っても、ルレイアさんの魅力に勝てるはずがない。

彼の女を奪おうだなんて、考えることすらおこがましい。

アリンコがマウンテンゴリラに単騎で喧嘩を挑んで勝てると思うか?そういうことだ。

「フューニャ…!信じてくれ。大丈夫だ。相手の女性には既にルレイアさんという主人がいる。俺にフューニャがいるように、心に決めた愛する人がいるんだ」

多分そのハーレム会員のルレイアさんへの愛と、俺のフューニャへの愛とは、質が違うものだと思う。

しかし、愛は愛だ。

「だから安心してくれ。絶対に仕事仲間以上の関係にはならない。フューニャに後ろめたいことはしない。俺を信じてくれ」

涙ぐみながら必死に説得する。

勿論演技ではない。本心である。

「帰ったら、ちゃんと埋め合わせするよ」

「…そうですか。あなたの妻は聞き分けの良い健気な妻なので、あなたの言葉を信じるとしましょう」

あぁ、フューニャ。俺の妻はなんて聞き分けの良い健気な妻なのだろう。

なんとか離婚の危機は回避したものの…しかし、問題はまだ残っている。

帰ってきたとき、どうやって今回の埋め合わせをするか、だ。

これは…じっくり考えなければならないな。
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