The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
たっぷりと甘えて満足したフューニャは、ひとまず機嫌を直したようだった。

第一関門は突破、というところだな。

まずは荷物を整理して、お土産を渡そう…と、スーツケースを引き摺ってリビングダイニングに向かうと。

「うわっ」

ダイニングテーブルの上には、所狭しと皿が並んでいた。

しかもよく見たら、普段はあまり作らないような手の込んだご馳走ばかり。

作り立てであるらしく、湯気が立っていた。

「フューニャ…メール読んでたのか」

俺が帰ってくるのに合わせて、作って待っていたのだろう。

しかし、フューニャは。

「メールなんて知りません。私の為に作って一人で食べようとしたら、あなたが帰ってきたんです」

「そうか」

そんなはずがない。テーブルに並んだ料理はどれも二人ぶん用意されているし、しかも俺の好物ばかりだ。

俺の送ったメールを読んで、すぐに取りかかったのだろうな。

でも、それを指摘したら否定するに決まっているので。

代わりにフューニャの頭を撫でてやると、フューニャは逃げなかったが、顔を赤くして俺から目を逸らしていた。

あぁ可愛い。本当に可愛い。

「仕方ないので、私のぶんを分けてあげます。食べても良いですよ」

「ありがとう。フューニャの料理がずっと恋しかったよ」

「…アシスファルト料理はルティス人の口に合うんじゃないんですか」

「でも、フューニャの料理ほど美味しくはないから」

素直に本心を言ったのに、フューニャは視線をぐるぐるさまよわせて、ふんっ、とそっぽを向いた。

「お世辞を言っても、許してあげませんから。お誕生日をすっぽかされた私の怒りはそんなものでは鎮まりませんよ」

「お世辞じゃない。本心だよ。それに…約束通り、埋め合わせはちゃんとするから」

それはそれ、これはこれだ。

飛行機の中でも、随分と考えたからな。

「具体的には?」

「明日と明後日、休みをもらったんだ。一緒に出掛けよう」

「…誕生日プレゼントは?」

「ちゃんと渡すよ。それから、お土産も」

「当然、期待して良いんですよね?」

「うっ…。も、勿論だ」

自信はないが、こう答えるしかない。

「分かりました。ではまず、食事にしましょう」

「あぁ。ありがとうな、こんなに頑張ってくれて」

こんなに作るの、大変だったろうに。

だがフューニャは、やっぱり俺の為に作ったとは認めなかった。

「私の為に作ったんです。あなたには、そのおこぼれをあげるだけです」

「そうか?」

「そうです」

意地でも認めようとしないフューニャが、またなんとも可愛らしかった。

そして。

「…美味しいですか?」

「あぁ。向こうで食べた、最高級のアシスファルト料理なんかよりずっと…フューニャの料理の方が美味しいよ」

素直に本心を言ったのに、フューニャはまた、ふんっ、とよそを向いてしまった。

でも、口許が緩んでいるのは見逃さなかった。

大体、おこぼれにしては量が多過ぎるよ。

フューニャが可愛過ぎて、どうにかなってしまいそうだ。
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