The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
…なんか、おかしいな~とは思ったのだ。

身体を引き摺られているような…そんな感触はあった。

しかし、深く眠っていた俺は、目を覚まさなかった。

殺意を感じなかったのも要因の一つだ。

仕事柄、例え酔い潰れていようが、殺意を感じれば即座に目を覚ましたはずだ。

が、それ故殺意以外の感情に関しては、やけに鈍感になってしまっていて。

ずるずると引き摺られているにも関わらず、俺は起きなかった。

よく起きなかったもんだと、後で自分に感心した。

何処まで引き摺られたのか、目的地に辿り着いたらしく、俺はべたっ、と床に転がされた。

この時点で、半分くらいは起きていたのだが。

やっぱり、目を覚ましはしなかった。

しかし。

次の瞬間、首の後ろから背中にかけて、ねっとりとした冷たい液体を垂らされた。

…ん?

次に、またしても首の後ろから、ざらっ、とした粉状の何かを入れられた。

その後首根っこを掴まれ、ぐいっ、と引っ張られた。

暗い箱に閉じ込められたような、そんな恐怖感を感じた俺は。

そのとき初めて、目を覚ました。

「…!?」

目を覚ましたはずなのに、目の前が真っ暗だった。

カプセルホテルを更に小さくしたような狭苦しい空間に、俺は上半身を突っ込まれていた。

そこが、結婚を機に買ったばかりの最新型ドラム式洗濯機の中だと気がついた俺は、声にならない悲鳴をあげた。

すると、俺を洗濯しようとした張本人であるフューニャは、俺が目を覚ましたことに気がついたようだった。

「…あら」

フューニャの絶対零度の声が、洗濯機の中に反響した。

「…洗濯物が起きた」

柔軟剤と洗剤にまみれながら、俺は洗濯機の前でフューニャに土下座した。
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